佐野眞一
『だれが「本」を殺すのか』
プレジデント社
学生:あれ、先生が、推理小説ですか?
めずらしいですね。
教授:
推理小説じゃないよ。「だれ
が殺したか」じゃなくて、「殺すのか」
になってるだろ。ノンフィクションさ。
学生:なるほど、で、いったい「だれ
が本を殺す」っていうんですか?先生
の出すたくさんの課題図書も殺してほ
しいくらいです。だいたい、どこで本
が死んでいるんですか?生協の本屋に
も図書館にも本は溢れているじゃない
ですか?
教授:
そう、たしかに本はたくさん生
まれている。日本では一年間に六万冊
以上の新刊が出ているんだ。君らに言
っている「一年間に百冊読め」なんて、
新刊の六百分の一にすぎない。今日、
一日だけだって一八〇冊もの新刊が出
ている計算になる。
学生:いったい「だれがそんなに本を
生む」んですか?
教授:
お、君にしてはおもしろい洒落
の聞いた質問だね。実は、本が死んで
いるのも、本が生まれすぎていること
に大いに関係があるのだ。六万冊を越
える新刊書の四割が書店から返品され、
その返品された本のほとんどは廃棄さ
れ裁断されてしまう。本の世界はチョ
ー「多産多死社会」なのさ。
学生:じゃ、先生、その「返品」というの
が犯人なんですね。
教授:
「返品」は犯人ではなく、本の死
の「原因」にすぎない。要は、どうして
「返品」がそんなにも多くなってしまう
のかなんだ。容疑者は「書店」「流通」
「出版社」「図書館」・・・
学生:だれが犯人なんですか?先生早
く答えを教えてくださいよ。
教授:
ずばり犯人は君だ。君が本を買わ
ないから、本が返品されてしまうのだ。
学生: えっ、そんな。だって、本屋に行っ
ても、買いたいと思う本はあまりないし、
買いたい本を注文してもなかなか来ない
し・・・・つまらない本を書いて、学生に
買わせようとする先生のような人がいるか
ら売れなくて返品も増えるんじゃないです
かあ。
教授:
おっと、反撃に出たな。私の本は
売れているぞ。それより、無駄口をきき
すぎて、本当の「犯人」について説明する
スペースがなくなった。しかし、この本は
ノンフィクションとはいえ、推理小説みた
いなものだ。「犯人」を言ってしまうのは
ルール違反だから言わないのだ。
(守 一雄)