広瀬弘忠
『心の潜在力プラシーボ効果』

朝日新聞社

 
 
: 暑いなあ。エアコン入れてよ。

: まだまだ、ガマンガマン。
「心頭滅却すれば火もまた
涼し」よ。

: そんなの気休めにすぎないよ。
暑いのはやっぱり暑いの。

: あら、心理学者のクセに
「プラシーボ効果」を知らない
の?私はこの本を読んで、「心
の潜在力」をもっと積極的に信
じてみようという気になったわ。

: 「プラシーボ効果」なら知っ
ているさ。プラシーボとは偽薬
のこと。単なる砂糖のような薬
効のないはずのものでも、薬
だと思って飲ませると、不思議
に効いてしまうことがあるって
ことだろ。小さい子どもに、お
母さんが「痛いの痛いの飛ん
でいけー」ってやるのと一緒で
子どもだましの話さ。

: あーら、あなたそれは勉強
不足よ。そんな単純なことじゃ
ないんだな、これが。人の心は
もっと奥が深い。この本には、
プラシーボ効果の例がたくさん
紹介されているわよ。有名な医
学専門誌の『ランセット』に載っ
ているような研究だから、単なる
「思いこみ」じゃなくて、本当に
プラシーボに効果があることが科
学的にも認められているわけよ。

: うーん、確かに「プラシーボ
効果」はもっと真剣に考えてみ
る必要はあるかもね。

: そうよ。しかも、なぜプラシー
ボが治療効果をもつのかについての
解明も進んでいる。「信じる」こと
で、脳内伝達物質のエンドルフィ
ンが放出されたり、身体が本来も
っている免疫機能が活性化された
りすることがちゃんと科学的にも
証明されているんだって。

: 「信じる者は救われる」ってことか。

:そうそう、それに、著者の広瀬
先生は、「信じること」が薬と同じ効
果があるくらいなんだから、心理的
な問題を解決するための心理療法の
効果はほとんどプラシーボ効果なん
じゃないかとまで言っているわ。

: うん、その話は他でも聞いたこ
とがある。心理療法には数百種類も
のいろいろな流派があるけど、どれ
も結局は療法家と患者との信頼関係
が決め手になるっていうのは、プラ
シーボ効果と同じことだからね。

: 「信じる」ことの効果といえば、
宗教もそうだしね。禅僧快川の言葉
も真理を突いていたわけよ。

: よーし。じゃ、ちょっと「エアコンのス
イッチ入れたわよ」って言ってみてくれ
ない。君の言葉を信じてみるから。

         (守 一雄)