藤澤伸介
『ごまかし勉強』(上下)
新曜社
教授
君、家庭教師やめて、
塾の講師になったんだって?
学生
ええ、バイト代は少し
減っちゃうんですが、塾の講
師の方がラクなんです。プリ
ント配って子どもたちにやら
せるだけだし。
塾のプリントってよくできて
るんですよ。学校の教科書
にもピッタリあっているから、
それをやっておけば学校の
試験でもけっこうよくできちゃ
うんです。
教授
でもそのやり方じゃ、
試験ではいい成績がとれて
も、内容がちゃんと理解され
ないだろう。
学生
試験勉強ですから、試
験さえできればいいんですよ。
教授
おいおい、教育学部生
がそんなことでは困るぞ。でも
やっぱりこの本のいうとおりな
んだな。
教授
この本では君がいうよ
うなその場しのぎの勉強を「ご
まかし勉強」と呼ぶんだ。そし
て、「ごまかし勉強」がはびこっ
てしまったことが今の子どもた
ちの学力低下の主たる原因
だとする。学力低下問題には
いろいろな仮説が出されてき
たが、この本の著者、藤澤先
生の「ごまかし勉強」説は最も
納得ができるものだ。
学生
でも「ごまかし勉強」を
やっているのは塾だけでしょ?
教授
ところがそうじゃない。
学校でも授業時間が短縮され
たりして、ゆっくりと考えたり、
何度も実験をして確かめたり
というような授業が減ってしまっ
た。その代わりに、効率よく教
科内容をこなしていく授業が好
まれるようになっているんだ。
教師もそのほうがラクだったり
するからな。
文部科学省が推進してきた
教科内容の削減も裏目に出て
いる。内容が減れば、ちゃんと
理解しなくても丸暗記で済むか
ら「ごまかし勉強」の方がむしろ
効果的だ。
さらに悪いことには、「ごまか
し勉強」の見かけの効率に騙さ
れて、教師もそれがいいやり方
だと誤解してしまうんだ。親だっ
て、成績さえよくなればと考える
から、「ごまかし勉強」を子ども
に勧めたりする。いってみれば、
社会全体が「ごまかし勉強」を容
認してしまっているようなものだ。
教授
まず、この本を読むことだ
な。藤澤先生は「ごまかし勉強」
をさせないための対策も提案し
ている。そういえば、対策の一つ
は「教師が安易に試験範囲を教
えないこと」だそうだ。私も早速こ
れを実践することにするぞ。
(守 一雄)