毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)
そうした「受験勉強」はどちらかというと「必要悪」のように言われることが多い中で、正面切って「受験勉強はいいものだ」と主張している人がいます。受験界の名門、灘中高から、受験界の最高峰である東京大学理科III類に進み、東京大学医学部を卒業して現在は精神科医である和田秀樹氏です。和田氏が『数学は暗記だ』(ごま書房)などの受験指南書をたくさん書いていることは知っていましたが、専門の精神医学の見地から受験そのものの利点を論じた本があることは知りませんでした。それがここで紹介する『受験勉強は子どもを救う』です。研究者仲間である東京大学の市川伸一さんがこの本を読んで、著者の和田氏に論争を挑み、それを本にまとめた『学力危機』(河出書房新社)を送ってくれました。その論争本が面白かったので、論争の元となったこの本も読み、さらにその元となった『シゾフレ日本人』『受験に強くなる「自分」の作り方』(どちらもKKロングセラーズ)と読み進みましたが、一番面白かったのはこの本でした。
先日たまたま見た「朝まで生テレビ」に出演中の和田氏はとりとめのない発言が目立ち、かなり浮いた感じでしたが、文章の方は明晰で論理的です。 (守 一雄)
これらの主張にそれぞれ1章ずつが割り当てられている。精神科医である著者にとって(2)の「現代の若者はシゾフレ人間となった」という発見が最も力説したい部分であろう。「シゾフレ人間」というのは、病的レベルではないものの分裂病患者によく見られる性格特性を持つ人間のことで、「自分」へのこだわりが希薄で、その代わりに「周囲」にこだわる人間のことを言う。一言で言って、周りの影響を受けやすい人間のことと考えればよい。自分で考えようとせず、周りに合わせるばかりだから、誰かがいいと言い出したものに一斉に飛びつくことになり、「宇多田ヒカル現象」などが起こるのだそうだ。
この辺の分析は正直言ってなんとも真偽判断がつきかねるが、あの森嶋通夫『なぜ日本は没落するか』(岩波書店)や三森創『プログラム駆動症候群』(新曜社)でも同じような分析がなされていたことを考えると一理あるもののようにも思う。もっとも、「人間誰でも年をとると若者が同じように見えるようになる」というだけのことなのかもしれない。
私が個人的に最も感心したのは著者が本来専門でないはずの(4)の指摘である。「分厚い中流階級層を持つ国だけが高付加価値商品を作り続けることができる」という主張には納得してしまった。(総中流階層社会には、中古市場が育たず、耐久消費財がどんどん捨てられてしまうという問題点もあるのだけれど・・・) (守 一雄)