第12巻第5号              1999/2/1
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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 「インフルエンザが流行っています。うがいや手洗いをこまめにして、罹ってしまったら無理をせずに、早めに医者に診てもらうようにしましょう。風邪ぐらいと無理をしてはいけません。風邪とインフルエンザとは違う病気なのです。」と、こうした「無理をせずに休みましょう」というような声がマスコミなどからもよく聞かれるようになりました。何がなんでも仕事優先と考える人が確実に減って、社会全体が病気をやさしく受け入れられるようになってきたのだと思います。(これも不況のせいでしょうか。)

 同じようなやさしさを心の病気に対してももっと持ちたいものです。ところが、心の病気に特有の難しさがあります。心の病気の場合は、失恋などの辛い体験から一時的に落ち込んでいるだけなのか、それとも病気なのかの区別がつきにくいのです。風邪のようにしばらく休養していれば自然に回復するような「単なる気分の落ち込み」だったらいいのですが、見かけは似ていてもインフルエンザのように治療が必要な病気の場合もあります。そして、治療の必要な精神病の発症率は思ったより高いのです。にもかかわらず、インフルエンザの場合と違って、精神病の場合には本人に病識(自分が病気であるという意識)が欠けていることが多いため、どうしても医者にかかるのも遅れがちになってしまいます。

 さらには、心の病気の場合には、インフルエンザのように「医者に診てもらうこと」を他人に気やすくアドバイスできない事情があります。同じ病気なのに、心の病気に対しては根強い偏見があって、家族や友達が「病気かもしれない」と思っても、なかなか精神科の医者に診てもらうよう勧めることができません。

 しかし、多くの偏見がそうであるように、精神病に対する偏見も「無理解」から生まれてきているのです。大学で心理学を専攻した私が遅ればせながら精神病について知るようになったのは、身近にそうした病気にかかっている人が思いのほか多いことに気づいてからでした。あわてて勉強をしてみると自分自身の勉強不足だけでなく、精神病や精神科医療に対する社会全体の理解不足が痛感されたものでした。(それでも、近頃は改善の兆しが見られるようになってきたように思います。きたやまおさむ『みんなの精神科』など、精神科に対する社会の意識を変えていこうとする働きかけも精神科の医師の側からなされるようになりました。)

 精神病そのものが謎であるという事情があったにせよ、あまりに教育がなされなすぎたのだと思います。高校まではもちろんのこと、大学の心理学科でさえ、精神病についてのまともな教育はなされていません。少なくとも私の学生時代にはそうでした。今だって、この教育学部の中で精神病についてどれだけのことが教えられているでしょうか?そして、無理解が偏見を生み出しているのです。誰もがインフルエンザに罹る可能性があるように、精神病も誰もが罹る可能性のある病気です。まずは自分自身のために、そして、自分の家族や友達が精神病に罹ったときのためにも、自分自身が精神病について知り、偏見をなくしておきましょう。

 私が教えればいいのかもしれませんが、残念ながらまだ授業で教えられるだけの力がありません。せめて本の紹介をさせていただきたいと思います。というわけで、今月紹介する本は、心の病の中でも最も難病であるとされる精神分裂病についての解説書です。症状や経過の特徴、原因の究明、治療法から患者の社会復帰、医療の体制、福祉のあり方にいたるまでがまとめられています。バランスのとれたていねいな記述の中に著者の優しい人柄が感じられます。この本によって、心の病に対する社会の無理解が少しでも改善されればと願わずにはいられません。(守 一雄)

【これは絶対面白い】

笠原 嘉『精神病』

岩波新書\640


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