第12巻第2号              1998/11/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 読書週間だそうです。ここ数年この時期になると決まって「活字離れ」「書籍発行の不振」などといった記事が繰り返されます。今年の読売新聞の読書調査では、「最近1ヶ月間に雑誌を除く書籍を1冊も読まなかった人が53%と初めて半数を越えた」と報じられていました。しかし、まあ、昔からそんなもんでしょう。最近になって本を読まない人が増えたというよりも、こうした調査で「正直に読まなかったと答える」人の割合が増えただけなんじゃないでしょうか。同じ調査の「好きな作家」を回答させた結果で、夏目漱石がベストテンに入っているくらいですから、まだ「体裁で回答している」人がかなりいることが読みとれます。まだ数年は「読まなかった」と正直に答える人は増え続けるでしょう。こうした層は読んだとしてもどうせベストセラーしか読まないんですから、増えた減ったと騒いでもしょうがないんです。それより、「1ヶ月間に5冊以上も読む」ようなDOHC会員が回答者の7%近くもいることがわかり嬉しいですね。同じ調査で、「もっと図書館を利用したい」という回答が41%だったこともわかったそうですが、これも「そうは思わない」と回答した57.3%の人のほうが正直者の割合が多いような気がします。それでも、今月紹介する以下の本は、ちょっと高いのでぜひ図書館で借りて読んで下さい。(守 一雄)


【これは絶対面白い】

J.エルマン他
『認知発達と生得性:心はどこから来るのか』

(乾敏郎他訳)共立出版\7500

 原題は、『生得性再考:コネクショニズムの発達観』である。人間を含むすべての動物が「発達」をする。人は皆、親になれば子育てをし、子どものよりよい発達のためにいろいろな努力をする。「教育」である。教育学部に身を置き、教育に関わる仕事をしていると、ついついその存在を否定したくなるのが「生まれつき」という概念、つまり「生得性」である。生得性と教育との対立は、遺伝と環境、本能と学習、氏と育ちなどとして古くから論じられてきた。生物学者による遺伝法則の発見や、遺伝子、DNAによる遺伝の仕組みの解明は遺伝説の妥当性を強め、一方、心理学者による学習原理の発見や学習メカニズムの解明は環境説、ひいては教育を重視することへの裏付けとなってきた。両者は、互いに相手側を無視してしまうほどに対立を極めるか、あるいは、「両方が複雑に交互作用しあう」という無難な結論でお茶を濁すか、というのが実状であった。

 しかし、「生まれつき」というのはいったいどういうことなのだろうか。いったい何がどのように生まれつくのか?この本では、そのことをもう一度よく考え直してみようというわけである。

 結論から言えば、遺伝説を支持するものでも環境説を支持するものでもなく、交互作用説である。しかし、その交互作用のメカニズムを「神経回路網の結びつきの変化」という視点から見ることによって、明らかにすることができるというのが、この本の著者らの主張である。その、「神経回路網の結びつきの変化」という視点が、「コネクショニズム」と呼ばれる考え方である。コネクショニズムのやさしい解説の章もある。(訳書はまだだが、シミュレーションソフトつきの姉妹書も出版されている。)

 訳書の書名にもあるように「認知発達」特に言語の発達が議論の中心となっていて、著者たちは心理学者である。しかし、従来の心理学の本とはまったく違う。分子生物学・遺伝学・発生学・大脳生理学などの最近の著しい進歩に伴う研究成果を踏まえ、「神経回路網の結びつきの変化」をモデル化しコンピュータシミュレーションするという最新の研究法を用いた、心理学の枠に留まらない、「最新の知」の本であると思う。訳者陣もこの分野の第一人者たちで訳文も丁寧で読みやすい。ぜひオススメしたい。(守 一雄)


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