第10巻第9号              1997/6/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.html
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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 今月紹介する本は、私が担当する教職科目の授業の副読本として受講生全員に買わせて読後レポートを課しているものです。そこで、改めてDOHCで紹介する必要がないと考えてきました。しかし、私の授業をとる学生は教育学部生のせいぜい4割程度ですから、過半数の学生にはこの本が紹介できません。パソコン通信での読者やウェブページでの読者もいることですので、今月号はあえて授業の副読本になっているこの本を紹介することにしました。ディベートは授業以外にも広く応用できると思います。議論の乏しい日本の心理学関係の学会でも、ぜひディベートをやってみたいと思っています。

【これは絶対面白い】

岡本明人
『授業ディベート入門』

明治図書\860


 「ディベート(debate)」というのは、討論を意味する英語であるが、ここでは「勝ち負けを争うゲームとしての討論」を意味している。オウム事件の際に何度もテレビに登場した広報担当の男Jが「ディベートの達人」であるとされ、ディベートという言葉だけは一般にも広く知られるようになった。しかし、まだ多くの人々は、ディベートそのものについてはほとんど知らないようである。
 ディベートの核心は「討論をゲームとして行うこと」である。ゲームであるから、「ルール」があり、「形式的なチーム分け」がなされ、そして「勝敗」が決まる。では「ルール」「形式的なチーム分け」「勝敗」がなぜ望ましいのだろうか?それは、この本を読めばわかる。しかも、この本ではそれをディベート形式で説明してくれている。ディベート形式であるからこそ、ディベートの利点がきちんと整理されて提示される一方で、考えられる問題点も提示される。そこでこの本を読めば、ディベートの素晴らしさが理解でき、さらに体験できるというわけである。
 今から15年前に信州大学教育学部に赴任して以来、私は授業に小グループでのディスカッションを取り入れてきた。大学院時代にカナダの大学に留学した際、授業中にディスカッションをするという方式に初めて出会い、「いつか自分も授業を担当するようになったら、ぜひやってみよう」と心に決めていたからだ。(思えば、シラバスを配ることやたくさんの課題図書を課すことなど、授業のやり方のほとんどを私はカナダの大学で覚えた。)
 ところが、いざやってみると日本の大学ではディスカッションは思ったよりうまく行かなかった。実りあるディスカッションができるところも出てくるのだが、うまく行かないグループもある。ディスカッションの成否はそのグループのメンバー次第ということになってしまうのである。その後、9年間にわたっていろいろ工夫をしてみたのだが、すべての参加者を満足させるような最適なやり方を見つけることができなかった。(それでも、全部の授業を講義にするよりも学生の評判は良かったようである。)
 そんな試行錯誤の中で、10年目の1991年の授業では、ディスカッションをディベート形式にしてみた。実はディベートは、遠い昔、学生時代に英語クラブでやったことがあった。しかし、学生時代の印象が強かったためか、「英語でやるもの」と決めつけていた。(確かオウムのJも「英語ディベートの達人」だった。)事実、手に入る参考図書も「英語ディベート」に関するものがほとんどだった。そこで、授業にディベートを導入するにあたっても、松本茂『英語ディベート実践マニュアル』(バベル・プレス\2,270)を参考にして私なりのやり方を考え、日本語ディベートマニュアルをプリントにして学生に配った。
それでもやってみるとディベートは大成功だった。受講生はみな驚くほど活発に意見を出し、夢中でディベートをやってくれた。「面白い」という感想もたくさん帰ってきた。「これは使える」と確信した私は、その翌年『大学授業改善のための授業ディベート実践マニュアル』という本を書こうと思ったほどだ。しかし、まさにその年にこの本が出版されたのである。内容も私が書こうと考えていたものよりも数段良かった。以来、この本は私の授業の課題図書となっている。受講生の評判もすこぶる良い。   (守 一雄)
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