第10巻第7号              1997/4/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.html
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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 新入生の皆さんご入学おめでとうございます。DOHC(Dokusho One Hundred Club:年間百冊読書する会)は、今からちょうど10年前1987年の春に発足した読書クラブです。特別な活動は一切していませんが、「私もたくさん本を読もう」と思ったら、その時からあなたもDOHCの会員です。
 DOHCには会則はありませんが、「1週間に2冊、1単位につき2冊、本を読む」という「1212運動」を推し進めることを会員の活動としています。1年は約50週ですから1週間に2冊で年100冊になります。また「1単位につき2冊」ならば、信州大学教育学部の学生はだいたい180-200単位取って卒業しますので、学生時代に約400冊、つまり年平均100冊読むことになります。
 そしてこの「DOHC Monthly」は、会員拡大のための宣伝を兼ねた書評ミニコミ紙です。本は読みたいけど何を読んだらいいかわからないという人のために、【これは絶対面白い】という本を毎月1回紹介してきています。読書は本来面白いものです。読書が嫌いな人は今まで面白い本に出会わなかっただけです。まずは以下に紹介する本を読んでみて下さい。きっとあなたもDOHCの会員になれます。
 「DOHC Monthly」は、授業で配布したり、学内に掲示したりするほか、パソコン通信を通して、全国の会員にも配布されています。研究室(北校舎N224室)前の箱からも自由にお持ち下さい。また、インターネットのwwwにホームページを作り、バックナンバーも含めて公開しています。(URLは表題の下にあります。)       (守 一雄)


【これは絶対面白い】

井口和基
『三セクター分立の概念
:日本社会の構造的問題とその解決の方向』

近代文藝社\1200


 いじめ・登校拒否問題をはじめとする種々の教育問題、バブルの崩壊後何もかもすっかりうまく行かなくなってしまった日本経済、政治家と官僚のスキャンダルが相次ぎ、国民の半分はもう投票にも行かないという状態の最悪の政治状況。いったい日本の社会はなぜこうもうまく行かないのだろうか?何が、その根本原因なのだろう?
 この難しい問題に見事なくらいすっきりとした明快な答えを示しているのがこの本である。「日本社会の構造的問題」とは「アカデミズム・セクターがないこと」であり、「その解決の方向」はその「アカデミズム・セクターを作ること」である、というのがその明快な答えである。
 では「アカデミズム・セクター」とは何か?それは、「政治家や官僚たちによって作られるガバメンタル・セクター」と「企業社会によって作られるインダストリアル・セクター」という2つの権力に対抗できる第3の権力機構であり、それはつまり「大学」である。日本にだって大学はあるではないか?確かにある、しかし、質量ともに貧弱であり、とても他の2つの権力に対抗できるほどの力がない。そう、井口氏の答えは、政官界・財界・学界のそれぞれが対抗できる力を持ち、その3つのセクターが分立することこそが、問題解決の道であるというのである。欧米の先進国ではそうした「三セクター分立」が成り立っている。それがどういう利点を生むか、詳しくは本書を読んでもらいたい。
 著者の井口氏は第一線の理論物理学者である。日本とアメリカの大学の博士課程で物理学を学び、その「青年期の長い精神世界における旅の間に考え続けてきたことを、アメリカの大学でPh.D.を取得した後、1990年に一気に書き上げたものである」という。こんな素晴らしい本がその後5年間も出版されないままになってしまうことも、日本にしっかりとしたアカデミズム・セクターがないからなのである。「あとがき」には、「本書は私の人生を賭けたメッセージである。」とある。今まさに日本の大学に入った新入生諸君には、このメッセージをしっかりと受け止めてもらいたいと強く思う。    (守 一雄)
残念ながら、この本は絶版になってしまったようです。
太陽書房から再版されました。以下のURLに紹介があります。(2002.2.25追記)
http://www.taiyo-g.com/shousai26.html
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