第10巻第4号              1997/1/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.html
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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくご愛読下さい。
 さて、思えば1996年は「PDPな年」でした。ラメルハートとマクレランドのPD Pモデルの原書が出てから10年が経ち、遅ればせながら私も『やさしいPDPモデル の話』を出しました(うふっ、また宣伝)。そして今年は「カオスな年」にしようと 思っています。カオスを一般人に知らしめたグリックの『カオス』の原書が出版され たのが10年前の1987年です(新潮文庫版は1991年刊)。去年は『複雑系』という『カ オス』の続編のような本の翻訳書が出て話題になりました(原書は1992年刊)。しか し『カオス』を読んでも『複雑系』を読んでも「なんだかスゴイらしい」ということ だけしかわかりません。以前から「カオス」をやさしく書いた本を探しては目を通す ようにしてきたのですが、「わかってることしかわからない本」か「まったく歯が立 たない本」かばかりです。
 難しいことをやさしく書いてくれる科学ライターはいないものかと思っていたら、 吉永良正『「複雑系」とは何か』(講談社現代新書)が出ました。しかし、これも「 周りをなでているだけ」の感じです。『カオス』や『複雑系』の科学ライターのマネ をしてつまらないエピソードや言葉遊びが目立ち、肝心のことがわかりません。早く 立花隆が書いてくれないかなと思っていたら、やっといい本に巡り会いました。これ はわかりやすくてオススメです。この本を読んで、ぜひ1997年を「カオスな年」にし ましょう。

【これは絶対面白い】

井上政義『やさしくわかるカオスと複雑系の科学』

日本実業出版社(¥1700)


「この本では現代のコンピュータ時代の学問が生みだした概念である「カオス」と 「複雑系」をキーワードにして、物理学や生物学、あるいは文系か理系かなどの分類 にこだわらず、学問の自由さと楽しさを紹介したいと思います。」「カオスや複雑系 に興味がある一般読者の参考にもなるように、説明はやさしくしました。数式がわか らなくても、図解などを参考にすれば、イメージはつかめると思います。」と「はじ めに」にあるように、比喩や図解が多用されていて確かにわかりやすい。重要な用語 が太字になっているし、索引があるのも便利である。(『カオス』や『複雑系』には 厚い本なのに索引がない!!)
 では、カオスとは一体なんだ。何がスゴイのか?カオスとは簡単に言えば、「単純 な式で表される現象なのに、まったく予測がつかない状態になること」である。ニュ ートン以来の科学は、世の中には「単純な原因で生じる単純な現象」と「要因が複雑 に絡み合う複雑な現象」とがあると考えてきた。ところが、「単純な原因で複雑な現 象が起こる=カオス」ことがわかったのである。これはニュートン以来の大発見だ。
 単純な式で表される現象がどうして予測のつかないようなものになるかというと、 式自体は単純でも、ある値をその式で変換(「写像」という)し、その結果をまたそ の式で変換するということを繰り返すからである。このように写像を繰り返すと、は じめはほんのわずかであった差が予期しない方向に拡大されてしまうことが起こるの である。単純な式を使った写像なんだから、0.5から初めても0.4999から初めても大 差はないだろうと思っていると、写像を何回か繰り返した後ではまったく違う値にな ってしまう。このことは、測定誤差が誤差とは言えなくなってしまうことを意味する 。さらには、今どんなに似ていても将来はまったく違ってしまうことを意味する。だ から、今日の気象状況が3年前の今日の気象状況にどんなに似ていたとしても、この 先1カ月の天気が3年前と同じになるとは限らないのである。つまり、天気の長期予 報は原理的に不可能ということになる。まったく同じような学級なのに、なぜ一方だ けにいじめが起きるのかという疑問も「いじめ発生のカオスモデル」で説明ができる かもしれない。
 カオスを反対に考えるとまったくデタラメで規則性がないと思われてきた現象の背 後にも単純な法則が隠されている可能性があることになる。そこで大いに期待がもた れているわけであるが、今のところはまだ期待だけが先行しているようである。 ( 守 一雄)
【誤植】 (p.73下から2行目「左は1、右は0」の10は逆。p.79の7−8行目{01.01}{0.0}{ 1.1}の上に線が抜けている。p.139の17行目「リャプノフ指」はもちろん「リャプノ フ指数」)
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