第10巻第3号              1996/12/1

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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.html
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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 このDOHC月報でマンガを推薦するのはこれが4件目です。実はこのマンガは2年以上も前からDOHC月報で取り上げる予定でいました。DOHC月報の10年目の頃にこのマンガの100巻目が出ることがわかっていたからです。そして、DOHC月報も10年目に入り、このマンガも100巻目がついに出ました。どうせならDOHC月報の第10巻最終号で紹介して、「DOHC月報も20年を目指そう」と書くことにしようかとも思ったのですが、やはり100巻目が出た今が紹介の旬でしょう。もう、このマンガだけで年間百冊の読書が可能です。

【これは絶対面白い】

秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』

集英社(\400)

 このマンガをまったく知らないという人のために、簡単に内容紹介をしておく。標題のような名前の架空の派出所に勤務する「両さん」こと両津勘吉という巡査がとても警察官とは思えないような数々の騒動を引き起こすというギャグマンガである。レギュラーで登場するのは、上司の部長、財閥の御曹司で桁ハズレの大金持ちでありながら、なぜか巡査をやっている後輩の中川巡査、そして美人婦警の秋本麗子巡査などであるが、4年に1度オリンピックの年にしか登場しない日暮巡査のような個性的な脇役陣も数多く登場する。発行数日本一(確か世界一でもある)のマンガ週刊誌『少年ジャンプ』に1976年から連載され、先月末で連載1000回に達した。そこで、9〜10週分を1巻にまとめて発行するコミックスでも先月100巻目が発行されたというわけである。
 内容を紹介するはずが連載回数の話になってしまったのは、このマンガの最大の特徴がこの息の長さにあるからである。個々の話はたわいないドタバタにすぎないが、ここまで長い期間書き続けると思わぬ副産物が得られる。それは、このマンガが1970年代から現代までの20年間の日本現代文化史になっていることである。「両さん」は新しもの好きで、そのとき流行っているものが必ず登場する。最近のものでは、Windows95やインターネット、携帯電話にPHSなど、マンガを読みながらその仕組みがわかるのもウレシイ。単に新しいというだけでなく、サブカルチャーものまでがカバーされているのもありがたいことで、女子高校生などに人気の「プリクラ」や、アニメマニアに人気の「コスプレ」のことがオジサンでもわかる。
 時代の最先端で流行ったものも、いつの間にか消えていったり、生活にとけ込んで当たり前のものになったりしてしまう。そこで、たとえば最近ではすっかり当たり前のものになったファクスがいつ頃から使われるようになったのか、レコードがCDに取って変わられたのはいつ頃なのか、などがこのマンガを調べるとわかるのである。(ま、図書館で新聞の縮刷版を調べてもわかるわけですが・・・)
 長い間続いているものがすべてこうした性格を持つようになるわけではない。思えば、1996年は、長い間人々に親しまれた2つの偉大な作品の終焉の年であった。映画寅さんシリーズも『ドラえもん』も同じように20年以上も続いたものであったが、どちらも初期の作品と最近の作品とに大きな差がない。時間が止まっている感じである。(「時代を超えた名作」と言うべきか。)寅さんシリーズでは、いつまでも変わらない下町人情が描かれ続け、一方、『ドラえもん』ではそもそも出てくる「道具」が22世紀の未来のものなのだから、そして映画の『ドラえもん』では恐竜時代の大昔にさえ行ってしまうのだから、20年なんて時間のうちに入らないのである。
 と、いろいろゴチャゴチャ書いてきたが、一番大事なことを忘れていた。それはこのマンガが文句なしに「面白い」ということである。面白くなくて読者に飽きられてしまえば、競争の激しい週刊マンガ誌に20年間も連載できないのである。(10年続いたといっても、勝手に授業で配ったり、パソコン通信で送りつけたりしているコレとは違うのだ。それでも20年を目指してガンバルぞー。)(守 一雄)
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