第9巻第12号                1996/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 「あーあ、夏休み終わっちゃいましたねえ。」「夏休み」なんですから夏なんて休めばいいんですが、受験生の頃の「夏を征する者は春を征す」というようなスローガンや、いやそれ以上に小学校時代からの「夏休みの宿題」というものが、すっかり心に染み着いてしまっているようで、夏休みの終わりに「この夏休みにいったい何をしただろうか」などと考えて、なんだかイヤな気分になっちゃうわけです。今年の夏は特に猛暑でもなく冷夏でもなく「ふつうの夏」でした。これといった仕事もせず、海外旅行に行ったわけでもなく、夏休みもただただ「ふつうの夏休み」でした。いつもと違ったことといったら、バーベキューコンロを買ってきて庭でバーベキューを何回かしたことでしょうか。しかし、この本を先に読んでいたら、もっと変わった夏休みになっていたかも知れません。


【これは絶対面白い】

村上宣寛『野宿完全マニュアル』

三一書房¥800


 「究極のアウトドア案内」と副題にある。新書版の本で「完全」だったり「究極」だったりするわけがないが、これは出版社の営業上の理由からこうなったのであって、恐らく著者は『実用・辛口の野宿生活の本』というようなタイトルにしたかったに違いない。アウトドア案内と言ったって、流行のRV車でオートキャンプをしたり、バードウォッチングをしたりといったシャレた趣味へのお誘いの本でもない。基本的には「歩き」である。金もほとんど使わない。だから、「野宿」なのである。『信州オートキャンプ入門』という本と『新宿ホームレス入門』という本があったとして、どっちにより近いかと言えば、後者の方である。上に書いたように、バーベキューコンロを買ってきても、信州に住んでいながら、山に出かけるわけでなく庭先で済ますという、アウトドア派とはほど遠い私には、ほとんど別世界であるが、これが読んでみると実に面白い。
 まず「なぜ野宿をするのか」が述べられる(第1章)。野宿には、体力作りも必要である。そこでトレーニングの仕方が簡潔に述べられる(第2章)。次は、バックパッキング(つまり歩き)とサイクリングの方法である(第3・4章)。さらには、寝室(第5章)、衣類(第6章)、各種器具(第7章)が紹介される。ここでは自らの使用経験に基づいた実用本位の各種用品が厳しく品定めされる。実践編では、食料計画(第8章)、宿泊地の選定(第9章)、そして最後に全体のまとめとして、熊本の親戚の家から鹿児島のいとこの家までの6泊の野宿の旅(サイクリング)の実際(第10章)が紹介される。宿泊費がタダだから、必要なのは食費だけでそれもほとんど野外での自炊なので、この旅6泊7日で8,000円しかかかっていない。いやー、お見事。
 著者の村上氏は富山大学教育学部に所属する心理学者。私と同世代で大学院時代はどちらも言語心理学をやっていた関係で論文抜き刷りの交換をよくしていた間柄である。同じ心理学者の奥さんの手伝いで臨床心理学に首を突っ込んだら、そのあまりのデタラメさに驚き、ロールシャッハ検査やMMPI日本版の欠陥を告発する本を書き、パソコンでできるロールシャッハ検査やMMPIを自分で作ってしまった。人間まったくの専門でない分野の方が自由に力が発揮できるらしい。(25年前、東京教育大学の学生だった頃、担任だった金子隆芳先生が歯茎を出して笑いながら、「守君、それをディレッタンティズムと言うのですよ」と言っていたのを思い出す。)このDOHC月報1993年11月号で紹介した同じ著者の『最新コンピュータ診断テスト』も面白かったが、今度の本の方がディレッタンティズムの度合いが強いぶんさらに面白いできばえである。 (守 一雄)


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