第9巻第11号                1996/8/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 先月号同様、今月号もパソコン通信による全国の読者に的を絞って本の紹介をしま す。といっても、また自著の宣伝というわけではありません。パソコン通信の読者に は同世代の仲間が多く、そろそろ癌を心配する世代だからです。もう既に、ベストセ ラーになった本ですので、知っているとは思いますが、それでも、なお、あえて「こ れは絶対面白いよ」と紹介したい本です。


【これは絶対面白い】

近藤 誠『患者よ、がんと闘うな』

文芸春秋社¥1,400


  抗ガン剤が実は効かないことやガンの早期発見が不可能であることを知るだけでも 目から鱗が落ちるような面白さである。著者の主張をまとめれば「抗ガン剤も外科手 術もガンの治療にはならず、患者が苦しむだけである。にもかかわらず、早期発見が 叫ばれ、抗ガン剤や外科手術に苦しむ人の数が増えている。手術で治ったように思わ れている例も、手術で治ったわけではなく、もともとガンではなかったにすぎない。 そして、ガンの治療はもしかすると患者のためではなく、そうした仕事で生計を立て ている医療関係者たちのためかもしれない。」ということになる。そして、その主張 をしっかりとした実証的データと論理で裏付けている。たった1人で、日本の医学界 全体を敵にまわして戦いを挑む著者の姿勢もすがすがしい。
 しかし、そのこと以外にも考えさせられることが多い本である。まず、「抗ガン剤 や外科手術が実はほとんどガンの治療に役立たない」というこうした明らかな事実が 、患者側は「治りたい」という欲望から、外科医側は「悪いところを切り取れば治る はず」という職業柄の思いこみから、ほとんど疑問視されてこなかったということが 衝撃的である。効果のあやしい抗ガン剤投与や意味のない手術を繰り返してきている 医師たちも、決して悪意があるわけではないに違いない。
 それでも、結局はどんな商売にもあるはずの、「営業上の理由」が医療の世界でも 幅を利かせているという当たり前のことにも改めて気づかされた。昨年5月に自宅を 購入して以来、何度となくやってくる「白蟻防除のための無料診断」は「診断は無料 って言ったって、どうせ白蟻がいると脅かして、結局高い防除費用を取るのさ」と看 破した気でいたのだが、職場でやっている「無料の胃ガン検診」も同じ図式だとは気 づかなかった。
 ところで、「ガンの治療のほとんどは効果がなく患者が苦しむだけである。にもか かわらず、早期発見が叫ばれ、かえって治療に苦しむ人の数が増えている。治ったよ うに思われている例も、治ったわけではなく、もともとガンではなかったにすぎない 。そして、ガンの治療は患者のためではなく、そうした仕事で生計を立てている関係 者たちのためかもしれない。」という図式は、どこかで聞いたことがあるような気が する。そう勉強と教育産業である。勉強をしても成績はほとんど上がらず、子どもた ちの多くがつらい思いをするだけである。にもかかわらず、早期教育が叫ばれ、勉強 づけの生活は低年齢化している。勉強をしたお陰で名門校受験に成功したように思わ れている例も、勉強のせいではなく、もともと頭の良い子だったからにすぎない。そ して、勉強はもしかすると子どもたちのためではなく、そうした仕事で生計を立てて いる教育関係者たちのためかもしれない。うーん、これはピッタリである。
 そろそろ誰かが『子どもたちよ勉強と闘うな』という本を書くべきときである。
( 守 一雄)


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