第9巻第3号              1995/12/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



  最近、ボスニアの和平交渉が(まだ仮合意らしいですが)成立しました。大変 喜ばしいことです。それにしても、日本人の明石さんをはじめとする国連が何度 も和平実現のための働きかけをしながら、ことごとく失敗に終わり、ほとんど泥 沼化していたところを、大統領選挙を控えているとはいえ、アメリカが本腰を入 れて交渉に出てくるとアッと言う間にまとまってしまうのですから、国際紛争問 題でのアメリカの力の大きさ、国連の力のなさ、をつくづく感じさせられます。 さて、こうした交渉で、実際の交渉当事者たちはいったいどんなことを話し合っ ているのでしょう。そして、こうした大きな交渉では、現実に利益や損害に係わ る当事者は、どちらも代理人を立てて交渉に臨むことになります。こうした代理 交渉の際に、代理交渉人と真の当事者とはどんな話し合いをするのでしょう。新 車を買うときのセールスマンとの値引き交渉から、こうした大きな国際紛争での 交渉までが、この本を読むとよくわかります。しかも、この著者の視点は交渉を 「楽しむ」ところにあるため、読んでいてもとても楽しいものになっています。 「読むと交渉がしたくなる」そんな本です。この本をまず買ってみて下さい。そ して読んでみて面白くなかったら、私に本代を返すように「交渉」してみて下さ い。                        (守 一雄)

【これは絶対面白い】

草野耕一『ゲームとしての交渉』

丸善ライブラリー¥680


 「交渉は、闘争をその本質に含む点において、戦争と類似している。一方で、交 渉には、当事者双方に利益をもたらすための、共同作業という側面もある。我々 は様々な局面において交渉の必要性に迫られるが、交渉は、それ自体として「楽 しい」ものではないだろうか。交渉の場の独特の緊張感、感情を抑制して議論に 神経を集中する一瞬--それは、強い意志力をもって交渉に臨む者に、秘めやかな 快楽を与えてくれるのである。」表紙カバー裏より
  筆者の草野氏は東大法学部在学中に司法試験合格、卒業後は弁護士活動に入り その後ハーバード大学大学院で修士号を取り、ニューヨーク州の司法試験にも合 格しているという「切れ者」である。日本人は政治家も企業家も外国との交渉が 下手で、日本の将来はどうなってしまうのかと心配していたが、こういう交渉家 が日本にも育っているのである。
 『ゲームとしての交渉』という書名にも示唆されているとおり、ゲーム理論に 基づく交渉術が述べられている。しかし、数式はほとんどなく、読みやすい。さ らにアメリカ仕込みの切れのいい割り切り感が小気味よい。交渉がいくつかのタ イプに分類され、それぞれの最適な交渉術が述べられている。この本を読んでお くのとおかないのとでは、交渉の成否に大きな違いができることは間違いない。 いろいろな事例も豊富で面白い。まさに、「面白くてためになる」という大変ウ レシイ本である。
 「まえがき」の中で筆者自身が述べていることだが、交渉の具体的事例として は、筆者の専門の「企業買収」の他、明治の政治外交の例が多く出てくる。今の 日本の政治家には「交渉家」として国際的に通用するような人が見あたらないが 明治時代には陸奥宗光や小村寿太郎という見事な交渉家がいたのである。「この 本を書いているうちに、明治という時代に対する思い入れが次第に強くなって、 筆が走ってしまった」という筆者の言葉通り、日本の近代史には感銘を受けるよ うな名交渉があり、そうした交渉について知るだけでも楽しい。(ちなみに、著 者は1955年生まれ、まだ40歳になったばかりで、決して「明治生まれの明治びい き」というわけではない。)                (守 一雄)


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