第8巻第10号              1995/7/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



  例年のことですが、信州大学教育学部は6月下旬からもう長い夏休みに入っていて、キャンパスは閑散としています。それでも今年から教養部が廃止されたことにより、松本にいる1年生も教育学部生となって、こちらの教育学部生は8月初めまで夏休みにはなりません。そんな1年生のための授業を担当しているため、私もまだ夏休みというわけにはいきません。松本まで鈍行電車で1時間半ちょっとの「通勤」は首都圏の人から見れば普通の通勤ですが、普段30分以内の移動に慣れている身にとってはやはりちょっとした「旅行」気分になります。普通の人なら、「そこで、ビールを1缶」となるところでしょうが、飲まない私は「そこで、文庫本を1冊」となります。著者は長野県生まれ。そんなこともあってか、長野県の話題も出てきて、篠ノ井線の鈍行で読むのにピッタリでした。                                    (守 一雄)


【これは絶対面白い】

新津きよみ『正当防衛』

徳間文庫¥580


  新進女流ミステリー作家と作家志望の主婦とが、ある「正当防衛」事件をめぐって心理戦を戦わせる。作家志望の主婦が10年前に「正当防衛」で殺した男の妹が、後に新進女流ミステリー作家となり、兄の事件の真相を探る。そして状況証拠を基に、「告発小説」を書く。作家志望の主婦は、その小説を修正した小説を作家に送る。主婦は、女流作家の弱みも握っていた。そして思わぬ展開に・・・。
 女流作家のペンネームと実名、主婦の現在名と旧姓、さらには同人誌でのペンネームがある他に、それぞれをモデルにした小説内小説の登場人物名が出てきて混乱しそうだが、人物の描き方がうまく、不思議と引き込まれていく。いくつかの事件が並行して起こり、それらの関係が徐々に明らかになっていく。「シンプルな題名からは想像もつかない多重構造のミステリ小説(「解説」より)」であり、凝った構成に感心した。このDOHC月報第1巻第2号で、高野陽太郎『傾いた図形の謎』(東大出版会)が学術書でありながら「本格推理小説」仕立てで面白い、と紹介したが、やはり推理小説のプロの構成はひと味もふた味も違う。
  巻末の「解説」によれば、新津きよみのベスト3はこれと『イヴの原罪』『胎内余罪』であるという。そこで早速、『イヴの原罪』も読んでみた。これも文句なく面白かった。『正当防衛』も『イヴの原罪』も美貌の女流小説家が主人公であるため、どうしても作者(カバーに写真あり)と重ねて考えてしまうのだが、DOHC第7巻第11号で紹介した松本侑子と同様に、女流小説家というのはきっとみんな凄い嘘つきなのだろう。いや待てよ、女がみんな嘘つきなのかも知れないぞ。いやいや待てよ、実は男も女もみ〜んな嘘つきなんだ。 ティーンズ・ミステリ出身のためか話のテンポが速く読みやすい。今まで読んだことがなかったが、きっと若い人には人気がある作家なのだろうと思う。参考までに新津きよみの著作を以下に並べる。(・印は長野市立図書館所蔵)       (守 一雄)
『両面テ−プのお嬢さん』角川書店(1988),『ヴァ−ジン家族』講談社(1988),『突然変異のマタニティ』角川書店(1988),『殺人デパ−トの巻』講談社(1988),『いとしのボディガ−ドさま』勁文社(1988),『・結婚させない女』双葉社(1989),『・結婚紹介殺人事件』有楽出版社(1989),『・殺人適齢期』双葉社(1989),『・安曇野殺人紀行』大陸書房(1990),『・イヴの原罪』新芸術社(1990),『・女監察医:叶理香子』大陸書房(1991),『・喪失の殺意』双葉社(1991),『・胎内余罪』実業之日本社(1992),『恐怖の白昼夢』双葉社(1993),『震える家』角川書店(1993),『・眠れない花嫁』学習研究社(1993),『・階上に住む女』実業之日本社(1994),『・匿名容疑者』徳間オリオン(1994),『正当防衛』徳間文庫(1995)
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