第8巻第9号              1995/6/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 登場したての頃ほど話題にならなくなりましたが、Gコードというテレビのビ デオ録画のための数字列があります。このGコードを打ち込んでやれば、めんど うなビデオ予約が誰にでも間違いなく簡単にできるということで、この機能の付 いたビデオデッキが売り出され、新聞の番組欄にもGコードが掲載されるように なりました。たとえば、今日6月1日(木)夜放送分の『ニュースステーション』 をビデオ録画しようと思えば、22789642という数字を打ち込めばそれだけでOK というわけです。
 Gコードには、ある特定のテレビ番組の(1)放送日(2)開始時刻(3)終了時刻(4) 放送局の情報が暗号化されて入っているはずですが、「その暗号化の方法は企業 秘密だ」とのことです。しかし、暗号化された番号とその「答え」とが、毎日の 新聞に載せられているのですから、暗号と答えの関係からその秘密を「炙り出せ る」のではないでしょうか?
 さらに言えば、Gコードを番組情報に変換する方法は、家電メーカー各社から 発売されているビデオデッキに組み込まれているわけですから、暗号化の方法は 秘密になりえないハズです。しかも毎日、何百とあるテレビ番組を新聞に間に合 うように暗号化できていることから考えて、そう複雑な規則で暗号化しているわ けでもないハズです。
 というわけで、前から「不思議だなぁ」と思っていましたが、その謎がこの本 を読んで解けました。どうやらGコードはこの本で説明されている「公開鍵暗号」 と呼ばれるものらしいのです。「公開鍵暗号」とは、暗号を作るための鍵(暗号 鍵)を公開しても大丈夫な暗号方式で、暗号鍵を使って誰でも自由に暗号化がで きるが、暗号を解くことはできないという不思議なものです。暗号と元の文との 間には、元の文を暗号化するための暗号鍵と暗号を元の文に戻すための復号鍵と が必要ですが、公開鍵暗号では、暗号鍵と復号鍵が違っていて、一方がわかって ももう一方がわからないようになっているのです。
 「そんなことはありえない」という気がしますが、「一方向関数」というもの を使えばできるのだそうです。「一方向関数」というのは、関数それ自身の計算 は簡単だが、逆関数の計算が非常に難しいような関数です。(たとえば、2乗の 計算はやさしいが平方根の計算は難しい。これは小学生にとっては、一方向関数 になる。)スパコンを使っても逆関数の計算が難しいような一方向関数を見つけ れば、そうした一方向関数の一方を暗号鍵にもう一方を復号鍵にして、公開鍵暗 号ができるわけです。
 どんな難しい関数なんだろうと思ったら、素因数分解とわり算の余りの計算(m odという)の組み合わせでした。とはいっても、簡単な方の関数の計算でさえコ ンピュータを使わなければできません。素数とか因数分解とか、学校では習った けれどいったい何の役に立つのだろうと思っていましたが、思わぬところで役に 立っているのですね。(守 一雄)

【これは絶対面白い】

太田和夫・黒沢馨・渡辺治

『情報セキュリティの科学』

講談社ブルーバックス\760


 コンピュータ・ネットワークで情報を送る際に、ある情報の発信者が確かに本 人であることをどう証明したらいいだろう。本人しか知らない秘密、たとえば 「パスワード」を言えばいいわけだが、一度言ってしまったら、もはや「本人し か知らない秘密」ではなくなってしまう。「私しか知らない秘密を知っていると いう事実だけを相手に伝え、秘密そのものは伝えない方法」はあるだろうか?
ある。それが「マジック・プロトコル」である。
 実は、公開鍵暗号の原理を使えば、マジック・プロトコルができる。復号鍵を 秘密にして、暗号を解くことができるという事実を示してやれば、秘密を保った まま秘密を知っていることを相手に伝えられるからである。難しいはずの数学の 話題がわかりやすく書かれ、コラムや練習問題、「読者への挑戦」問題も付いて いて、楽しく読める。 (守 一雄)


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