第7巻第4号              1994/1/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくご愛読下さい。
1994年の年頭を飾るこの本は、1年の始まりにピッタリの本です。
        (守 一雄)

【これは絶対面白い】

野口悠紀雄『「超」整理法』

情報検索と発想の新システム

中公新書\720


 筋立てがめっぽう面白いうえに、個々の場面ごとにも読者を喜ばせるような仕掛がしてあるような究極の推理小説に匹敵する面白さ。読みやすく、わかりやすく、知的な興奮を与えてくれるばかりでなく、実際に役に立つ、しかも、安い、という、もう新書のお手本。序章で「あなたの整理法はまちがっている」と読者にゆさぶりをかけた後、第1章で「超」整理法の基本思想とその実際が紹介される。第2章はパソコンを使ったその発展形が紹介され、第3章では一度視点をひいて、整理法の一般理論が紹介される。そして、第4章では、情報の整理という「守り」から、新しいアイディアの生産という「攻め」に転じ、アイディア製造システムが紹介される。最後は、個人レベルを越えた未来社会への方向づけである。こうした章だても見事であるが、各章には「まとめ」があり、最後には「索引」もあるなど、細かな配慮が嬉しい。そのほかにも、随所にウィットの利いた囲み記事があったり、また、「こうもり問題」「神様ファイル」「家出ファイル」「君の名はシンドローム」など、種々の現象への命名法も楽しくてわかりやすかったり、もう何から何まで、本とはこうありたいと考える「本の理想形」が実現されている。
 では、この本で紹介されている「超」整理法とは何か。それは、すべての書類を「分類せず」に、とにかく「同じ大きさの封筒に入れ」て、「使った時間順」に、「1箇所にまとめ」ておく、というものである。特に重要なことは、検索(必要な書類を捜し出す)のための重要なキーを「時間軸」としていることである。確かにこの方法は現実にきわめてうまくいく。そして、野口氏は、この整理法がうまくいく理由として、「人間の記憶が、脳の中で時間順に並んでいることとも関連しているようである」と述べる。なるほど、なるほど。
 さて、認知心理学についてある程度知っている読者なら、「脳の中で時間順に並んでいる」記憶が「エピソード記憶」と呼ばれるものであることに気づくであろう。実は、これを読むまで、私は、エピソード記憶の重要性に気づかないでいた。だから、エピソード記憶の特性を活かした情報整理法も思いつかなかったのだ。(大事なものはマグネットクリップでロッカーに張りつけていつでも見えるようにしておくという短期記憶の特性を活かした方法は使っていたのに。)野口氏は、日常において雑多な情報が入ってくる状況をうまく整理するための方法として、この時間軸に沿った整理法を考えだした。しかし、雑多な情報がこれでもかこれでもかと入ってくるものの典型は私たちの記憶であり、それでもうまく機能しているのは、私たちの記憶の中にこの超整理法と同じ仕組みがあるからにちがいない。だからこそ、この超整理法が人間(特に個人)の外的な情報管理にも適しているのである。(「エピソード記憶」の提唱者であるタルヴィングも超整理法とエピソード記憶の対応づけについてはまだ気がついていないかも知れない。さあ、早く論文にしてしまわなければ。)                     (守 一雄)


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