第6巻第6号                   1993/3/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

(e-mail address が変わりました)



  3月になりました。(昔のテレビアニメ『元祖天才バカボン』のエンディングに歌われていた「41歳の春だから・・・」と同じ41歳の春を迎えています。)今月紹介する本は、昨年度のベストセラーの上位に入り、あちらこちらで書評もなされたものですので、もう読んだ人も多いかも知れません。専門的な話で、別に何の役に立つわけでもないのに、面白いという、私が考える新書の理想を見事に実現させた本です。わずか660円と2時間ほどで、不思議な時間の世界が楽しめます。                             (守 一雄)

【これは絶対面白い】

本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間』

中公新書\660


 以前から、巨大化したはずのウルトラマンがちっとも大きく見えないのは、動きが速すぎるからだということには気づいていたが、この本を読むまで、体重と時間との間にハッキリとした法則があるとは知らなかった。その法則とは、「時間は、体重の1/4乗に比例する」というものである。そこで、体重3万トンと想定されているウルトラマンは、実際よりも25倍(体重が普通の人間の38万倍だからその4乗根)ゆっくり動くとそれらしく見えるはずだったのだ。(しかしそれでは、ほとんどのシーンは超スローモーションとなってしまう。そういえば、確かに、ジャイアント馬場は動きが遅い。)
 この「体重の1/4乗」則は、単なる動きだけでなく、呼吸の頻度、心拍間隔、成長の速さなどすべてにあてはまり、ひいては寿命にまであてはまるという。そこで、大きいゾウと小さいネズミとでは、違う時間の世界に生きていると考えるべきなのである。つまり、この本は生物学における相対性理論の本である。誰にとっても(どんな生物にとっても)時間は同じように公平に流れて行くと考えがちであるが、実は、ゾウにはゾウの時間が、ネズミにはネズミの時間があったのである。
 この話は一方で、こんな面白い事実も教えてくれる。ゾウは、確かにネズミより長生きだけれど、息をするのも心臓を打つのも、成長するのもそれなりにゆっくりなのだから、「本人にとっての生きている時間の長さ」は結局同じなのかも知れない。事実、寿命を呼吸回数で割り算してやると、ゾウもネズミも、一生の間に約5億回で同じである。同様に、心拍数も一生の間に20億回で同じになる。なんとも公平な話である。
  以上が、この本の第1章の紹介。この他にも、サイズが変わると、身体の仕組みまでが変わってしまうことや、そればかりか、エネルギー消費量、行動圏、生き方なども、変わってしまうことが引き続く章で紹介される。しかも、その変わり方にもちゃんと法則がある。生物の大きさの違いというたった一つの話題を展開させながら、驚くほど多くの話題が登場して、「ふーん、そうなのか」と感心することしきりである。(つい、誰かに話したくなることがたくさん出てくる。)
 「ベストセラーが必ずしも面白い本とは限らないヨ」と思ってまだ読んでいない人。これは、面白いからこそベストセラーになっている本ですよ。 (守 一雄)
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