第6巻第4号                   1993/1/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, dmori@c1shin.cs.shinshu-u.ac.jp)



あけましておめでとうございます。1993年もどうぞよろしくご愛読下さい。
 わが長野県は、男性の平均寿命が日本一、女性も3位と、全国一の長寿県であることが昨年暮れのニュースで知らされました。人生80年時代真っ盛りです。私はかねてから、寿命を年単位ではなく日単位で考えて「人生3万日」という表現を好んで使ってきましたが、実は昨年7月1日が私の生後15,000日目で、「折返し点」でした。私の人生も、残り時間の方が短くなってしまったのです。
 奇しくもその人生の折返し点に出版された本を、昨年の暮れに読みました。新年にはあまり似つかわしくない重苦しいテーマの本ですが(といってもDOHCの1月号は例年暗いテーマを取り上げてきている)、強く感銘を受けた一冊ですので紹介します。                        (守 一雄)

【これは絶対面白い】

R・F・マーフィー『ボディ・サイレント』

辻信一訳 新宿書房\2600


 コロンビア大学の人類学教授であるマーフィー氏は、3年間にわたる忙しい学部長職を終えて、平和で穏やかな輝かしい中年期を楽しむ生活へ戻るはずだった。しかし、その時48歳だったマーフィー氏は、自分自身の身体の中でゆっくりと進行する脊髄腫瘍による身体麻痺の世界へと「実地調査旅行」に出かけることになるのである。この本は、14年間にわたるそうした進行性の身体麻痺の世界への「実地調査旅行」の民族誌的な記録である。
 読みにくいところのまったくない見事な翻訳をした訳者の辻信一氏の解説によれば、この本は(1)身体論として(2)身体障害の社会論として(3)現代アメリカ文化論として(4)身障者からの抗議の書として(5)生と死についての哲学的な省察として、という5つの観点から読めるという。本書の完成の頃には、身体麻痺が四肢すべてに及んで、自分自身の身体がほぼ完全に客体化されるという状況に至ったマーフィー氏の体験を通して、私は確かに身体障害を疑似体験した。自分の身体が社会の始まりであること、身体障害者になるとはどういうことなのかをここまで深く感じたことはなかった。
 このことはおそらく、私が、マーフィー氏の進行性の身体麻痺を、「老い」のメタファーと感じていたからであろう。1年前にはうまくできたことが、今は難しくなり、1年後には全然できなくなってしまう、という遅々とではあるが確実に後退していくプロセスは、私にも必ず実体験されることなのである。マーフィー氏が「人間は誰もみな能力の限界をもち、多かれ少なかれ障害者なのだ」という言葉と合わせてみれば、これはもう否定のしようがない。
 ああ、今年もまたしばらく欝になりそうである。    (守 一雄)
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