第35巻第4号                2022/1/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行 [発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくご愛読をお願いします。松本大学での嘱託勤務もいよいよ最終年度となり、この3月末で退職となります。思えば1982年4月に信州大学に就職して以来40年間、楽しく大学教員生活を続けて来られたこと、本当に幸せだったと思います。年末には、アメリカに本拠を置く科学的心理学の学会APSから「Mentor Award (学生指導者賞)」をいただけるという連絡があり、教員生活の最後に花を添えることになりました。授賞式は今年の5月にシカゴで行われます。

 私的なことでは、昨年6月に老後に備えて自宅を建て直しました。知り合いの設計士にお願いして自然素材を使った快適な家が作れました。幸い、夫婦ともに健康なので、この家で30年間暮らす計画でいます。

 さて、退職後には何をするかです。計画していた「あと2冊の執筆」は叶いませんでしたが、共同研究はまだ続けられそうなので、今後も共著論文の執筆は続けたいと思います。投稿中の論文もまだ2件ありますし。論文書きは趣味なので、共著のお誘い歓迎します。(守 一雄)

(c)東海大学出版部
 

【これは絶対面白い】

吉田 武『虚数の情緒』

東海大学出版部 (¥ 4,730)

 右の表紙画像だけではわからないが、厚さ5センチ1000ページの大著である。大学図書館の「科学の名著フェア」でロビーに飾ってあったのをたまたま見つけて「なんだ、この本は?」と手にしてみた。大学の出版部から出ている本なので、「この大学の教員が趣味で書いた本だろうが売れないだろうな」と思いながら奥付を見ると、2000年の初版から20年間でなんと32刷も増刷されているではないか。

 しかし、「虚数の情緒」とはいったい何のことだ。しかも、虚数の「虚」は旧字である。「中学生からの全方位独学法」と副題にあるが、いったい何を独学するのかもわからない。表紙カバー裏には「本書は人類文化の全体的把握を目指した科目分類に拘らない独習書である.歴史、文化、科学など多くの分野が、虚数を軸に悠然たる筆致で書かれている」とある。「うーむ、なんだかスゴそうだ。」

 さっそく「巻頭言」を読んでみると、ちょっと古い活字の文章の漢字にはすべてルビ(ふりがな)がついている。まるで「聖書」のようである。その最初の文が「さあ諸君、勉強を始めよう勉強を.(ルビ省略)」である。「聖書」かと思ったら『学問のすすめ』だった。「巻頭言」に示されている著者の学問に対する意識の高さも素晴らしい。私自身の40年間の意識の低さが恥ずかしいくらいである。この「巻頭言」を読むだけでも相当の勉強になる。私も百歳まで生きることにしたのだから、著者の言う「百歳の少年」になってみようではないか。

 というわけで、著者の高い志に勇気付けられて読み始めた。しかし、読みながら、何度も立ち止まって考えてしまった。難しくて理解できないからではない。むしろ、著者の思いに共感することが多いために、いろいろ考えてしまうのだ。これではとても読み終えそうもない。

 それでも、百ページを超える『方法序説』(第0章)で人類の学びの歴史を読み終えると、いよいよ数学の話になった。ここでも、初歩の初歩から丁寧に独習への導きがなされている。「自然数」から始まり、「四則演算」、そして「素数」である。「二次方程式」と「根の公式」くらいまでは、中学校数学の復習であった。それでもここまででほぼ400ページ、まだ半分に達しない。タイトルにある「虚数」が出てくるのは455ページである。この辺からは「ガウス素数」など知らなかったことが学べるようになる。ここからは道は険しい。それでも「ネイピア数」「三角関数」を経て、数学界の美の化身である「オイラーの公式」に自力で登りつめると感慨もひとしおである。

 実は2ヶ月ほどで、オイラーの公式 (p.616) までたどり着いたのだが、第Ⅲ部「振子の科学」(物理学編)で1ヶ月停滞してしまい、まだ読了できていない。退職までに読み切れるだろうか。(守 一雄)

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