dohc2103

第34巻第6号                2021/3/1
XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV-XXXIV

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行 [発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 単行本は2013年に公刊され、2016年に文庫になりました。今は2021年ですから、もう8年間近く経って、やっと気づいて読んでみました。読み始めてすぐに「あっ、あの菅谷さんの冤罪事件のことか」とわかり、あとはただもう引き込まれるように夢中になって読みました。副題にある「北関東連続幼女誘拐殺人事件」というのは、1979年の栃木県足利市での5歳の女の子の殺害から、1996年の群馬県太田市での4歳の女の子(この子だけは行方不明のまま)までの5件の連続事件のことです。菅谷利和さんは、このうちの4件目にあたる1990年の足利市の松田真実ちゃん(4歳)が殺害された事件の犯人とされていました。しかし、決め手とされたDNA型による「犯人であることの証拠」が再鑑定の結果、「冤罪の証拠」となり、無期懲役となっていた菅谷さんは無実であることが明らかとなったのでした。

 そうなると、当然、警察は真犯人を改めて見つけなければならないはずです。さらには、この事件は「足利事件」と呼ばれていますが、それは警察側が5つの事件を同一犯によるものと認めていないからで、残りの事件の犯人もまだ捕まっていないのです。警察側が5つの事件を同一犯によるものと認めたがらないのは、1996年の5件目は菅谷さんの逮捕起訴後に起こっているからです。同一犯による連続事件なのだとしたら、警察が誤認逮捕をしなければ、第5の事件は未然に防げたことへの批判も警察に向けられてしまうでしょう。

 驚くことに、日本テレビの記者であったこの本の著者清水潔さんは、取材をする中で「犯人を特定」しているのです。だからこそ書名も『犯人はそこにいる』としているのでした。ところが、そうした犯人についての情報を警察に提供までしているのに、警察はこの「犯人」を捕まえようとしないのです。そしてすべてを隠蔽しようとしている。副題にある「隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」がそれを示しています。いったい、警察は何を隠しているのでしょうか?この本には、その理由までが書かれています。これが「小説」ではなく「事実」なのですから驚くとともに警察権力の恐ろしさを感じます。

 著者の清水氏は、かつて一世を風靡した写真週刊誌『FOCUS』の記者だった時代にも警察の不正を暴いています。それは『桶川ストーカー殺人事件−遺言−』(2000年新潮社刊、2004年新潮文庫)として出版されています。私は、逆順で読みましたが、どちらを先に読んでもかまわないと思います。どちらも、警察ってこんなに酷いことをするのかと驚き、憤りを感じ、最後に怖くなります。 (守 一雄)

(c)新潮社
 

【これは絶対面白い】

清水 潔 『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件

新潮文庫 (¥750+税)

 栃木県足利市、群馬県太田市、県境で隣接し、渡良瀬川と利根川が近くを流れる北関東のよく似た自治体である。同じような地域の中で、同じように幼女が誘拐され河川敷で死体となって発見される事件が連続して起こった(うち、1件は行方不明のまま)。誰もが、同一犯による連続事件を考えることだが、そのうちの一件だけは「容疑者」が捕まって、最新の科学的捜査であるDNA型検定で型が一致し、自供も得られたことで、「犯人」は裁判で無期懲役になっているのである。この一連の事件に疑問を持った日本テレビ記者の清水氏は、独自に取材と「捜査」をし、テレビ番組によって警察の誤りを告発した。そして、「解決」したはずの一件が冤罪であることや、一連の事件の真犯人を突き止めた。本書は、その始まりからその後、そして現状までを克明に記したものだ。(守 一雄)

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