DOHC1402

第27巻第5号                2014/2/1
XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII-XXVII

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kaz-mori[at-mark]cc.tuat.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html

 今月号も最近読んだ本からの紹介ができず、かなり前に遡って面白かった本を探しての紹介になりました。暑い盛りだった去年の7月に涼を求めて読んだ本なので、寒い時期には季節外れとなりますが、お許しください。しかも、かなり厚い (Sorry, no pun intended) 本で、紹介するにあたって読み直していたら発行が遅くなりました。文庫本も定価が千円を超えるようになりました。ゆうに2冊分の厚さですからね。でも、充分2冊分楽しめます。(守 一雄)


(c)文藝春秋社
 

【これは絶対面白い】

藤崎慎吾『鯨の王』

文春文庫(¥1,038)

 冒頭に有名なメルヴィルの『白鯨』からの引用がある。これは現代版の『白鯨』なのである。『白鯨』は単なる小説というよりも科学ドキュメンタリーのようにマッコウクジラの生態を記述したものでもあった。この『鯨の王』もフィクションではあるが、深海に密かに生息している未発見の巨大なマッコウクジラと人間との自然界での不幸なぶつかり合いがテーマとなっている。登場するのは原潜(原子力潜水艦)や海底基地、舞台は深度4,000mを超える深海である。主人公の乗る深海潜水船にはイルカとサメの脳とコンピュータを融合させたハイブリッド型人工知能が搭載されていて人間と会話しながら自動操縦を行なう、というように現代版というよりは近未来版である。

 クジラの生態についての最新の知識も学べる。鯨類学者の大学教授須藤が主人公の一人であり、この「巨体で髭面の酔っぱらい」という典型的なフィールド系の動物生態学者がクジラ学について蘊蓄をたれるのだ。クジラだけでなくいろいろな海洋生物についての知識も楽しめるようになっている。ホントにこんな学者がいそうだなと思って読んでいたら、巻末の「解説」を書いているのがモデルになった東京海洋大学のクジラ学が専門の教授だった。しかも、このセンセイ、「この小説をあまりよく読まずにこの解説を書いた」と豪語する小説の登場人物そのままの豪傑であった。

 もう一人の主人公として登場するのが「イルカとサメの脳を持つ潜水船」のパイロットである日本人女性ホノカである。ホノカはイルカの調教師になりたくてアメリカに留学するが、友達のように仲良くなったイルカが病気で死んでしまうことになり、そのイルカの脳を移植した潜水船のパイロットになったというちょっと強引な設定である。(さすがに、このホノカにはモデルはいないだろうと思う。)

 アメリカ海軍は世界中の海に原子力潜水艦を配備して密かに深海の軍事利用を進めている。さらには、深海の資源開発のために産軍共同の海底基地を作り上げていた。深海資源の探索や、未知の生物から有効な薬品開発などのために、兵器メーカーや石油会社がコンソーシアムを組んで海底熱水鉱床探索基地を作っているのだ。そこに、高齢の導師を救う「伝説の秘薬」としての龍涎香(マッコウクジラの体内にできる結石)を手に入れようとするムスリムのテロ組織が加わって深海を舞台にした争いが繰り広げられる。しかし、そこは本来、この深海で静かに暮らしてきた巨大なクジラであるダイマッコウたちの生活圏だったのだ。ダイマッコウたちはどんな反撃をしてくるのか、その反撃に主人公らはどう対応するのか。目に見えない深海での様子をソナーの音だけを頼りに探る主人公たちのように、読者は文章だけから巨大なダイマッコウたちの泳ぐさまを想像しなければならない。それを可能にする著者の筆力もスゴイが、映画化されて巨大なスクリーンで見られたらもっと素晴らしいと思った。(守 一雄)

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