第20巻第6号                  2007/3/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@shinshu-u.ac.jp)

 古代ギリシャでは哲学と科学の区別などなかったから、アリストテレスの時間論は、哲学であると同時に、当時の最新科学であったはずである。
 [にもかかわらず]現代の哲学者が説く時間論は、現代物理学(おもに相対論と量子論)が明らかにした時間の本性をほとんど無視している。すなわち、ニュートン流の絶対空間・絶対時間の考え方に未だに囚われている。

 本書の出だしの「哲学と科学の乖離」の部分にこう書かれている。確かにその通りだと思う。しかし、そう思って相対論や量子論の本を読んでも、チンプンカンプンで歯が立たない。相対論で言えば、「光の速さがそれを観察する者の速度にかかわらず常に一定であること」や、「光速に近づくにしたがって時間の進み方が遅くなる」なんてことがどうしてそうなのか、理解できないのだ。ましてや量子論にいたっては、何がわからないのかさえわからないレベルである。ときおり、易しく書かれたものを探して読んではみるのだが、「易しい」部分はわかっても、「難しい」部分はやはり理解できず、結局「わからないことはやっぱりわからない」という読後感しかえられないままである。

 ところが、本書は違った。これはわかる。京都大学理学部物理学科・大学院理学研究科を出て、相愛大学人文学部教授で、SF作家でもあるのだから、まさに物理学の最先端をわかりやすく説明できる貴重な人材なのだろう。カバーにある紹介文にも、「わかりやすい授業と参考書で、物理のハッシー君として受験生に絶大な人気を誇る」とある。私が知らなかっただけで、この領域では定評のある人だったようだ。          (守 一雄)


  
(c)集英社
 

【これは絶対面白い】

橋元淳一郎『時間はどこで生まれるのか』

集英社新書¥693


 著者はまず第一章で、色や温度についてのやさしい解説から始め、どちらも私たちの生活にかかわるマクロな世界にしか存在しないものであることを説明する。色は特定の波長の光に対する私たちの感覚であり、物質に固有のものではない。ミクロの世界には色はない。だから、水の分子はどんなに拡大して見ても色はない。温度も同様である。温度は個々の分子の運動をマクロレベルで見たときの集合現象であり、個々の分子には温度がない。

 時間もこれと同じである。「ミクロな世界では時間はない」ということなのだ。私たちが自明のものと考える時間もミクロの世界にはないのである。だから、タイトルも『時間はどこで生まれるのか』となる。その答えは本書を読んでのお楽しみということになる。

 第二章から四章までは、ミクロの世界には時間が存在しないことの説明にあてられる。この部分で、相対論における時間の不思議さと、量子論における時間の非実在性が解き明かされる。相対論も量子論も今までちっともわからなかったが、ここを読んでやっと少しわかった気分になった。私たちの住む4次元の時空間のうち、「時間軸だけが実数で空間の3次元は虚数なのだ」という驚きの説明に目からウロコが落ちるようだった。

 後半の第五章から七章では、ミクロの世界には存在しないはずの時間が私たちの住むマクロな世界では存在すること、いったい「どこで時間が生まれるのか」の謎解きである。時間の不可逆性の説明によく使われるエントロピー増大の法則や秩序とは何かについての議論がなされた後、あるキーワードを使って著者の結論が述べられる。

 最後に付録としてのコラムが5つあり、上述の「時間が実で空間が虚」となるミンコフスキー空間についての解説や、タイムマシンについてどう考えるべきかについての著者の考えが述べられている。さらにその後の参考文献の解説もわかりやすい。

 この本を読んで少しわかった気になったので、新刊のブルーバックス(広瀬立成『対称性から見た物質・素粒子・宇宙』)に挑戦してみたのだが、やっぱりよくわからなかった。これに対し、橋元氏の本はわかった気分にしてくれるだけでも嬉しい。  (守 一雄)

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