第20巻第3号                2006/12/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@shinshu-u.ac.jp)


  
(c)筑摩書房
 

【これは絶対面白い】

須田慎一郎『下流喰い--消費者金融の実態』

ちくま新書¥735


 

 消費者金融と言えば、大学院生だった頃に「プロミス」のテレビCMでジョークを言い合っていた記憶があるのだから、テレビの深夜枠などでCMが頻繁に流されていたのは30年以上も前だということになる。大学院生時代は貧しかったが、消費者金融(当時は「サラ金」と言っていた)を利用しようと思ったことは一度もなかった。

 大学に職を得てからも、消費者金融とは無縁の生活を送っていたが、いつだったか、日本の長者番付の上位をこの業界のオーナー社長たちが独占したようなことがあり、「なんかヘンだな」と思いだした。どう考えても、消費者金融の会社が儲かるはずがないと思っていたからである。通常、金融は「将来の儲けのために何かに投資すること」が大前提になっている。だからこそ、利息を払ってでもお金を借りる意味がある。しかし、消費者金融は「儲けるために借りる」のではなく、「今払えない分を先送りするため」だけに借りるのである。そんな目的で金を借りること自体が非生産的でナサケナイことなのに、そんなナサケナイ理由で借金をする人に金を貸す側が大儲けできるなんて、どう考えても尋常ではない。絶対、何かウラがあるにちがいない、と思った。

 当時、「国民一人当たり平均して10万円くらい消費者金融を利用している」というようなデータが紹介されていたように記憶している。即座に「この平均はアヤシイ」と思った。一部の利用者が何百万円あるいは何千万円も借りていて、それを平均するとあたかも誰もが健全に10万円程度ずつ利用しているかのように見えるだけなのだろう。

 もしそうであるならば、消費者金融が儲かる仕組みが推測できる。ある程度の資産を持つ家のバカ息子などを標的にして、多重債務に陥らせ、最終的はその資産を取り上げてしまえばいいのである。資産がない標的の場合は、生命保険にでも加入させて最後は命と引き替えにさせてしまう。こうすることで、こうした「標的」から数千万円を搾り取れる。なにもたくさんの顧客を集める必要はないのだ。何百人かに一人でも「標的」を見つけて、そこから絞れるだけ搾り取れば十分に「儲かる」のである。薄く広く貸し出しをしているかのように見せかけているテレビCMも「標的」を油断させておびき寄せるためなのである。

 こうした悪魔のような図式が本当なのかどうか、身近の仲間との雑談の際にも話してみたのだが、もともと別世界のことなので、興味を持つ人もなく、真偽が明らかにならないままになってしまっていた。関連する本も探して読んではみたのだけれど、私の解釈をそのまま書いたような本は見あたらなかった。

 そうした中でついに見つけたのがこの本である。読んでみて、「やっぱりそうだったのか」と思った。そして、さらにあくどい弱いものいじめの実態が書かれていた。銀行もマスメディアもこうしたあくどい商売に荷担している。社会全体で、文字通り、下流層を喰いものにしているのである。武富士の幹部はこう言ったという。「ウチは、500万円も600万円も年収がある人にはカネは貸しません。ウチが貸すのはせいぜい年収400万円まで。年収200〜300万円の客はウチにとって優良顧客ですよ。」こうした客に、200万円も貸してしまえば、毎月45,000円ずつ返済を続けていっても、利息分だけの支払いにしかならないから一生返済が終わらない。たしかに「優良顧客」である。しかも、年収200万円ということは月収は17万円にしかならない。そこから毎月4.5万円(月収の25%以上)を返済に回せるはずがない。いずれ「もっと優良な顧客」になってくれることは目に見えているのである。「ご利用は計画的に」と言うけれど、「計画的」にやっているのは貸す側なのだ。   (守 一雄)

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