第20巻第2号                2006/11/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@shinshu-u.ac.jp)


  
(c)大月書店
 

【これは絶対面白い】

板垣恭介
『明仁さん、美智子さん、皇族やめませんか』

元宮内庁記者から愛をこめて

大月書店¥1260


 

 2006年9月6日、日本国民待望の男の子の皇族が誕生し、悠仁親王と名付けられた。

 しかし、皇族存続の危機は回避されたとは思えない。もう、日本の皇族は「絶滅危惧種」のような存在になってしまっているのだ。悠仁親王は結婚できるだろうか?天皇になることが決まっている人と結婚することを望む女性がどれだけいるだろう?誰でもいいのなら、財産目当てにでもお妃候補を目指す女性がいるかもしれない。しかし、宮内庁がそれを許さないだろう。一定以上の家柄でそれなりに裕福な家庭に育った女性しか候補とされないはずだ。そんな恵まれた境遇の女性が、どうして不自由な皇室に嫁入りをしようと思うだろうか?雅子さまのことを考えれば、誰もが躊躇するに違いないのだ。

 結婚しても子宝に恵まれないカップルは少なめに見積もっても10組に1組だといわれる。なんとかお妃がみつかっても、子どもを授かる保証はない。さらに、授かったとしても男の子である確率は半分だ。悠仁親王が適齢期になるころには、人工授精や男女の生み分けなど生殖医学が現在よりずっと進歩しているだろうから、最新の医学を駆使してでも・・・

 ちょっと待ってくれ。いくら「絶滅危惧種」だからといって、周りからやれ人工授精しろだの、男女の生み分けをしろだの、言われる方の身にもなってみていただきたい。と、思って改めて考えてみると、皇族の人たちは日本でただ唯一、憲法の基本的人権の保障がされていないのだ。皇族に人権はないのである。ま、かつては「神」だったのだから、もともと人権はなかったのかもしれないが、「神」でもなくなった今も人としても扱われていないのだ。

 さて、この本の著者板垣氏は長い間宮内庁担当の新聞記者として、かなり内側から皇室を見てきた人だ。もちろん、それでも皇族の方々ご自身がどう考えているのまでは知りようがないが、それでも世間になんとなく流布してしまったイメージが正しくないことを明らかにしてくれている。

 悠仁親王が誕生したことで、一時さかんに議論されていた女系天皇を認めるかどうかの議論もすっかり萎んでしまった。女系を認めるかどうかよりも、こんな人権無視の天皇制をいつまで続けるのかこそをしっかりと議論すべきであると思う。

 私はもちろん右翼でも右寄りでもないが、なんとなく天皇制が好きだった。国の歴史の重みを感じるし、アメリカという超大国にも天皇はいないじゃないか、なんて無邪気に考えたりしていた。しかし、そうした天皇制へのささやかな好感も、現在皇族を務められている人々の犠牲の上に成り立っているのだ。たとえば、ありえないことだが、『乞食王子』の話のように、天皇や皇太子と入れ替わることができるとしても、私は絶対入れ替わろうとは思わない。

 考えれば考えるほど、皇族の方々はお気の毒である。明仁さん、美智子さん、ごくろうさまでした。もう皇族はおやめになってもいいですよ。(守 一雄)

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