第19巻第8号                         2006/5/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 
(c)解放出版社
(c)晩聲社
(c)星雲社

【狭山事件】1963年5月1日、今からちょうど43年前の今日、埼玉県狭山市に住む中田義枝さん(当時16歳)が何者かに誘拐され、身代金を請求されるという事件が起こった。犯人は身代金の受け渡し現場に現れたが、張り込んでいた警察は犯人を取り逃がしてしまう。そして、義枝さんは殺されて発見された。警察は近くの被差別部落に住んでいた石川一雄さん(当時24歳)を犯人として逮捕、地方裁判所で死刑、高等裁判所で無期懲役、最高裁への上告は棄却され刑が確定した。これが「狭山事件」である。石川さんが被差別部落出身者であったことから警察などが部落差別に基づく冤罪を引き起こした可能性が強く、石川さんは裁判でも二審以後一転して無実を主張し、今も多くの支援団体とともに再審請求を続けている。また、この事件では裁判の進展に伴って多くの不審な自殺者が相次ぎ、謎の事件としても知られている。


 私も「狭山事件」の名前は聞いたことがありましたが、その具体的な内容はまったく知りませんでした。事件が起きた頃、私は小学校6年生、狭山市とはすぐ近くの戸田市に住み浦和市の小学校に通っていたのですが、何の興味も持たず、その後マスコミ等でも取り上げられたはずなのに、何も知らないまま今日まできてしまいました。そんな私が「狭山事件」に興味を持ったきっかけは、先月号で紹介した本橋信宏『素敵な教祖たち』(コスモの本1,500)でした。この本そのものも面白かったのですが、この本はまた面白い本をたくさん紹介してくれてもいたのでした。そんなわけで、先月は本橋氏が紹介してくれた本をかなり読みました。思った通り、杉山治夫さんの本(『実録・悪の錬金術』など、青年書館)、テリー伊藤さんの本(『お笑い革命日本共産党』飛鳥新社)など、どれも面白かったのですが、なかでも「狭山事件」に関する以下の2冊は別格でした。 (守 一雄)

【これは絶対面白い】

解放出版社(企画制作)木山茂(劇画)
『劇画・差別が奪った青春』

解放出版社¥1,236

殿岡駿星『犯人「狭山事件」より』

晩聲社¥2,369


  実は、「狭山事件」に関する本はまだ6冊しか読んでいない。そのうちの2冊を紹介してしまうというのはいかにも安直である。同じ狭山事件を扱ったものでもっと面白いものがあるかも知れない。その通りである。しかし、これらの2冊も文句無しに面白いのである。木山茂『劇画差別が奪った青春』には、写真や図版が満載されていて、「狭山事件」の概要がよくわかる。この本では、基本的に石川一雄さんがいかにして犯人に仕立て上げられていったかと部落差別の問題に焦点が当てられている。(1973年に初版が出てから3刷、私が手に入れた1978年に出た第2版は第11刷を数えていた。よく読まれていることがわかる。)
 もう一冊の殿岡駿星『犯人「狭山事件」より』晩聲社では、「それではいったい真犯人は誰なのか」という疑問に答える見事な推理が展開されている。著者は小説仕立てのこの本を通して、真犯人に自首を迫っている。これはもう推理小説を完全に越えている。推理小説と同様、ここでは推理の内容紹介は差し控えるが、実はこれとは別の推理もなりたつらしい。亀井トム『狭山事件権力犯人と真犯人』三一新書(480)では、「警察(権力犯人)と真犯人とがグルである」というとてつもない推理がなされている。にわかには信じられないことだが、この著者が永年にわたって丹念に事実を追ってきたこと、そしてその詳細な事実を突きつけられると「実はこれが真相かもしれない」と思えてくる。 (守 一雄)


 以上は、「33年前」を「43年前」に修正した以外は、10年前に書いたDOHC第9巻第8号のそのままである。『劇画・差別が奪った青春』はまだAmazonで購入できるが、『犯人「狭山事件」より』の方は絶版になっていた。しかし、昨年、同じ著者の殿岡駿星氏がほぼ同じ内容で『狭山事件の真犯人』(デジプロ¥1,890)を出版した。あれから10年経った今も石川一雄さんの再審請求は認められないままである。いったい日本の司法関係者は何を考えているのだろうか?(守 一雄)

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