第19巻第6号                         2006/3/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 
(c)筑摩書房


【これは絶対面白い】

梅田望夫『ウェブ進化論』

ちくま新書(\777)


 新書版でスッと読み通せば1時間ほどで読めてしまいそうな本であるが、新しいアイディア(というか新しいものの見方)が盛りだくさんの本で、途中で何度も考えを巡らすことがあって、結局は1週間くらい持ち歩くことになった本だった。

 著者の梅田氏はアメリカ・シリコンバレーに住み、現地でベンチャー企業を経営している「知る人ぞ知る」有名人らしい。この本に書かれている内容も、『フォーサイト』誌に掲載された「シリコンバレーからの手紙」という氏の連載記事や、氏のブログ「My Life Between Silicon Valley and Japan」に書かれていたことをまとめ直したものなのだという。それでも、これだけの内容が電車の中で手軽に読めるのはありがたいことである。

 日本ではIT業界の寵児ともてはやされたホリエモンが一転して袋だたきに会い、IT関連企業そのものが本当に儲かっているのか疑惑が持たれるようになっているが、GoogleやAmazonなどインターネット第2世代で業務を展開する会社は、もうまったく新しい世界を築きあげてしまっている。あの巨人マイクロソフト社でさえ、第1世代に取り残されてもがいているのだそうだ。

 いろいろなキーワードが登場してくるが、インターネットの「あちら側」と「こちら側」という考え方が最も強く印象に残った。梅田氏は、「量子力学を学ぶ際にはニュートン力学からのアナロジーで理解しようとしてはいけない」というファインマンの言葉を引用して、インターネット社会もまた、「今までの現実社会とのアナロジーで理解しようとしてはいけない」と警告する。

 そうはいっても、アナロジーを使わずに「あちら側」と「こちら側」を説明することは難しい。私なりに理解したアナロジーを使うとすれば、インターネットの「あちら側」とは、「実在しない仮想の大陸」である。この仮想の大陸は、実在するアメリカ大陸や日本列島とは違い、物理的な広さの制限もなければ、移動時間の制約もないというように、実在する大陸での常識が通用しないまったく新しい世界である。

 インターネットの第1世代では、この仮想大陸にいろいろなお店ができて、私たち「こちら側」住民が「通信販売」で買い物をしていたわけである。仮想大陸のお店で買い物をしても、最終的には宅配便で商品は必ず「こちら側」に届けられる。パソコンのソフトや、音楽配信でデジタルの曲をダウンロードする場合のように、宅配便を使わない場合でも、「こちら側」のハードディスクに「商品」が納入されることに代わりはなかった。

 しかし、よく考えてみると「あちら側」ですべてが済んでしまっているような場合もある。学術データベースがそうだ。数年前まではCD-ROMで実物が届いていたものが、最近は「あちら側」にあるデータベースへのアクセス権を購入しているだけである。電子ジャーナルも、まだどうしてもプリントアウトしないと読む気がしなくて「こちら側」に持ってきてしまうが、「あちら側」のまま目を通して、「あちら側」で原稿を書いて、「あちら側」で投稿して、「あちら側」で採録されるようになれば、すべてが「あちら側」で済んでしまうということなのだ。

 最終的には、「あちら側」に仮想の私が住み着いてしまえるようになるかもしれない。「あちら側」の私が「あちら側」でお金を稼ぎ「あちら側」で使う。インターネットの第2世代では、このようにすべてが「あちら側」だけで完結してしまうような基盤ができたということなのである。

 このことで思い出したのが、MITのOLPC(One Laptop per Child)プロジェクトである。世界中の子どもたちの学習環境を劇的に変える手段として、世界中の子どもにノートパソコンを1台ずつ与えようというもので、自家発電用ハンドル付きのパソコンが目指す価格は1台100ドル。このパソコン、ネットに無線で接続できるがハードディスクは着いていないのだ。入口さえ用意してやれば、子どもたちは「あちら側」で勉強すればいいからである。本当に「本当の大変化はこれから始まる」のかもしれない。   (守 一雄)

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