第19巻第5号                         2006/2/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 
(c)講談社


【これは絶対面白い】

岡本薫『日本を滅ぼす教育論議』

講談社現代新書(\756)


教授 あれ、しばらく見なかったけど留学でもしてたんだっけ?

学生 ええ、先月帰ってきました。先生の言うとおり、外国から見ると日本のヘンなところがよくわかるということがわかりました。

教授 そうだよな、文部科学省のお役人さんでも、この本の著者みたいに海外生活が豊富だと日本の教育論議のおかしさがわかるんだろうな。

学生 えっ、文部科学省の人が日本の教育の批判をしちゃってるんですか?

教授 ははは、そう。でも、この人はもう文部科学省を辞めちゃったけどね。

学生 うわっそれでは、よほど凄いことが書かれているのでは・・・

教授 イヤ、別に文部科学省だけを批判しているわけではない。この人はたまたま文部科学省にいたので、教育の分野での具体例が多いけれど、いろいろな問題の解決がなかなかできないことの背景に、私たち日本人はそもそも物事の「マネジメント」ができていないことがあるというんだ。

学生 「マネジメント」って何ですか?

教授 著者の言葉を借りれば、“「目標の設定」と「手段の開発・実施」などを行っているプロセス”ということだ。「管理運営」と訳されることが多いけど、この著者も言っているように、そもそもピッタリと言い表せるようないい日本語がないこと自体が私たち日本人が「マネジメント」を軽視しがちであることをよく表しているんだと思うよ。

学生 うーん、まだよくわからない・・・

教授 この本では、マネジメントを「現状認識」「原因究明」「目標設定」「手段開発」「集団意思形成」の5つの段階に分け、それぞれに1章ずつを充てて、日本での教育論議のおかしいところを指摘している。特に、具体的な比喩が面白い。たとえば、子どもたちの心の問題を解決するために心の教育をするのは、問題の原因を取り除かずに対策だけを立てるという間違いで、それはタンクの水位が下がってしまうからといって原因である穴を塞ぐという解決法を取らずに、上から水を足すようなものだと言っている。

学生 なるほど。

教授 はっと気づかされるような鋭い指摘も多い。たとえば、世界中の教育行政関係者にとって共通の大問題は「結果平等状態から結果不平等状態への移行を人生のどの時点に設定するか?」というものだという。生まれたばかりの赤ん坊は、新生児室の中で完全に「結果平等」に扱われるべきだが、大人になればどんな社会でも、機会だけが平等に与えられているだけで、最終的に「結果不平等」にならざるをえない。日本では実質的にこの移行がなされるのは高校入試段階だが、「移行」という本質的な問題があるかぎり、中高一貫校を作ったり、高校入試改革をしたりしても解決はできないことなんだ。

学生 長野県でも学区を変更したり、高校を統合再編成したりの「教育論議」をしているけど、なんか空回りになっちゃうのはそのせいなんですね。

教授 「理科系離れ」についての指摘も面白いぞ。理科に興味を持たせようというような対策が取られているが、それも完全な間違いだというんだ。なぜなら、別に子どものときから病気を治すことに興味を持たせようとしてこなくても、「医学部離れ」は起きていない。だから、理科系離れが食い止めるには、興味を持たせることよりも「収入・待遇・地位」をもっと高くしてやればいいだけのことだというわけだ。

学生 でも、そんなによくわかっている人が文部科学省を辞めちゃったんじゃ、日本の教育界はますますお先真っ暗ですね。ホントに日本は滅びてしまうんでしょうか?

教授 まあ、そんなことはない。これはボクの勝手な意見だけれど、日本の教育の一番不思議なところは、「世界的に見るとこんなにもヘンな教育論議がなされているのに、こんなにも教育がうまく行っている」ってことなのさ。この著者が言うように、日本人はみんな「教育教」の信者だからなのかも知れないね。 (守 一雄)

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