第18巻第12号              2005/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 
スペースシャトルは日本にも悪影響を及ぼした。


【これは絶対面白い】

松浦晋也『スペースシャトルの落日』

エクスナレッジ(\1,365)


「スペースシャトルは失敗作である。」これがこの本の結論である。「そんなバカな」と思うかも知れないが、この本を読むと、なぜ失敗だったのかがよくわかる。それだけでなく、私たちが漠然と抱く宇宙開発というものがいかに間違っているかが痛感される。

 たとえば、スペースシャトルの特徴である翼のある船体。映画『スターウォーズ』に出てくる小型飛行船にもみんな翼がついているので、ちっとも不思議に思わなかったが、真空の宇宙空間に翼は不要である。もちろん、地球に戻る際に大気圏では使うのだが、大気圏を通過するのは全行程のうちの最後の15分間だけである。

 このわずか15分間のための翼が、同じ大気圏を通る打ち上げ時にはじゃまになる。翼のために打ち上げ用のロケットも複雑で巨大なものにしなければならない。安全性にも問題が起こる。二年半前の「コロンビア」の空中分解事故は、打ち上げ時に断熱材が翼にぶつかって翼を損傷したためだった。翼がなければ損傷することもなかったのである。今回の野口さんの飛行でも、傷ついた耐熱タイルの修復作業が宇宙空間での「船外活動」として組み込まれていた。じゃまなものを宇宙空間までわざわざ持っていって、貴重な宇宙空間での活動の多くを「翼の修理」に充てる壮大なムダに誰も気がつかないのだろうか。

 実は、大気圏突入後にだけ「役に立つ」翼は、何も翼でなくともよい。ロシアの宇宙船ソユーズは翼の代わりにパラシュートを使っている。パラシュートなら、打ち上げの時はしまっておけるから、じゃまにもならない。帰りには雨が降るからといって、頑丈な覆い付きの重装備で旅行に行かなくとも、折りたたみの傘を持っていけばいいだけの話だったのである。(しかも、せっかく旅行に行ったのに、その旅行中に「頑丈な覆いの修理」をしているのだから、念が入っている。)

 スペースシャトルの特徴は、機体の再利用にもある。リサイクルが万能視される現代では、宇宙船も再利用する方が正しいように誰もが思う。しかし、再利用のためにコストが余分にかかるならば、結局はムダが多いことになる。コストは基本的に再利用できないからである。スペースシャトルは再利用のために、重さが七十トンにもなってしまった。重力に抗して地上500kmの軌道上に物を運ぶためのコストは同じ重さの純金に等しいという。スペースシャトルは、100 トンを打ち上げて、再利用のために70トンを地球上に戻すことを繰り返しているのである。

 スペースシャトルは「国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)」に物資を定期的に運ぶ役目があるのだという。しかし、スペースシャトルが運べる物資はせいぜい20トン程度である。スペースシャトル打ち上げに使うロケットは120トン程度のものまで打ち上げられる。しかし、スペースシャトル自体が空っぽでも70トンはあるので、荷物はほとんど積めないのである。自重70トンのトラックで20トンの積み荷を運んでいるようなものだ。ということは、よく考えてみると、スペースシャトルを使わずに「物資だけ」をロケットで打ち上げて遠隔操作で国際宇宙ステーションに届ければ、一度に100トンの荷物が運べるのではないのか。

 そもそも「宇宙空間」とか言っても、スペースシャトルの軌道は地球からたかだか500km上空にすぎないのだ。直径30cmの地球儀で言えば、スペースシャトルも国際宇宙ステーションもわずか1cmのところにあるにすぎない。いったい純金に等しいだけのコストをかけて、地上500kmを周回することの意味があるのだろうか?

 実は、このバカげた無駄遣いの背景に、巨大化したアメリカ宇宙産業があり、日本における公共事業と同じ官需企業の存在があるという著者の指摘に、妙に納得できてしまうことが何だか悲しい。さあ選挙に行こう!

(守 一雄)

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