第18巻第3号              2004/12/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 以前にも書いたことですが、新津きよみとか、小川洋子とか、松本侑子とか、乃南アサとか、そしてこの宮部みゆきとか、「女性作家はなんでこんなにもウソがうまいんだろう」というのが読後の第一印象でした。もちろん、悪い意味ではありません。登場人物の描き方のリアルさ、状況設定の巧みさなど、ここまで見事に創作ができることに、ただただ驚くばかりなのです。もっとも、「小説家はみなそうである。なぜ女性作家ばかりがウソがうまいと言えるのか?」と問われると、ちょっと答えに窮することも確かです。ただ単に、男性作家の小説をほとんど読まないだけのことかもしれませんので・・・。

 
(c)新潮社


【これは絶対面白い】

宮部みゆき『理由』

朝日文庫・新潮文庫\900


 都内の高級超高層マンションで「一家4人」が殺害されたという事件の真相を、あたかも『NHK特集』の取材クルーが丹念に検証していく、というスタイルで書かれた小説である。実際に起こった事件についてのルポルタージュだと言われればそうだと思えるほど真に迫っている。700ページ近い長編であり、後で述べるように事件に関係するいろいろな家族が登場してくるため、やや混乱するところがあるが、引き込まれるように読んだ。(私が読んだ新潮文庫版の他に朝日文庫版もあるが内容は同じとのこと。価格も同じ。)

 新潮文庫版の池上冬樹氏の解説にもあるように、この小説の中心的なテーマは「家族とは何か」ということだろう。一つの事件をめぐって、事件のあったマンションの元々の持ち主一家、それを買い取った一家、そのマンションを不当占有していた一家、殺人事件の主犯一家、その「主犯」を殺してしまう主人公の一家という5つの主要な家族が登場してくる。それぞれの家族には、妻と夫、父親と息子、姉と弟、義母と嫁、舅と嫁、といった人間関係があり、そして、それぞれが育った別の家族やそれぞれがこれから新しく作る家族がある。小説は、架空の取材クルーが主要な登場人物から話を聞いていくスタイルとそれぞれの家族をドキュメンタリー風に描写するスタイルとを織り交ぜながら進行していく。主要な家族は上記の5つであるが、最終的には、それぞれの実家や親戚を含めると18くらいの家庭が登場することになる。そして、被害者家族と思われた4人は「他人同士が家族になりすましていた」のに、そこにもちゃんと「家族」はできあがっていたのである。

 いったい家族とはなんなのだろうか。私も既に2つの家族(定位家族と生殖家族)の中で生き、この年齢になると、いやおうなしに親戚家族ともいろいろな関わりを持たざるをえない。さらには近い将来、自分の子どもたちが新しい家族を作っていくだろう。そんな時期にいるからこそ、改めて自分の家族や人生について考えてしまった小説であった。

インターネットで宮部みゆきの評判を検索してみると、宮部みゆきのベスト3は『火車』『模倣犯』とこの『理由』であるようだ。本来ならば、それをすべて読んでからこのDOHCで取り上げるべきなのだが、ここんとこ発行遅れが続いているので(今日は6日!)お許しいただくことにする。それでも、ネットで宮部みゆきの本を検索してみたら、『あやし』とか『R.P.G.』とか『鳩笛草』とか『かまいたち』とか、結構読んでいるものがあった。それにしても、多作である。アマゾン書店では148件がヒット。単行本と文庫の重なりや上下巻もそれぞれカウントされている分を差し引いても80年代半ばのデビューからほぼ 20年間で100冊、1年5冊のハイペースである。次から次へとウソが沸いてくる。やっぱりスゴイ嘘つきなんだ。

 インターネットを検索していたら、大林宣彦監督によって映画が作られていて、今月に劇場公開されるのだそうだ。映画のホームページ(http://www.riyuu.jp/)にキャストが写真入りで紹介されている。登場人物が多いので、読んでいて「あれ?この人誰だっけ?」と前を読み直すことが多かった。キャストの写真を見て、イメージを固定させながら読んでいくと混乱しにくいかもしれない。久しぶりに映画も見たくなった。 (守 一雄)

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