第16巻第12号              2003/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


(c)文藝春秋社

 先月8日に父が78歳でこの世を去りました。父は今年1月に脳梗塞で倒れ、救急車で病院に運び込まれましたが、その後、一言も言葉を発することなく半年後に亡くなりました。半年間の入院は家族に父の死への覚悟をさせる猶予期間を与えてはくれましたが、本人にとってはなんの意味もなく、税金によってまかなわれる医療費をただムダにしただけでした。

 死ぬのはだれでもイヤですが、誰もがいつかは死ななければなりません。だとすれば、生きているうちに一番望ましい死に方を考えておきたいものです。日本人の死の原因は大きく分けて3つ、病気か事故か自殺かです。若い人は事故死や自殺が病死を上回りますが、私くらいになると、死はまず病死と考えるべきです。老人の病死は心臓疾患・脳疾患・肺炎・ガンの4つにほぼ等分されます。だから、選ぶとすればこの4つのメニューからということになります。実はだいぶ以前から、私はガンが一番望ましい死に方だと考えてきました。そして、今回の父の死に際し、さらにその意を強くしました。

 心臓疾患・脳疾患はどちらもアッと言う間に死ぬことになります。(運悪く助かってしまうと、重度の後遺症が残り、まともな生活が困難になります。)肺炎による死は脳心臓疾患による死ほど突然ではありませんが、多くの場合はやはり突然死です。少なくとも、自分の死期を知ってから「死の準備」ができるわけではありません。父の場合も自分の死を自覚することも、そのための準備をすることも一切ないままに人生が終わりました。これは決して父の望むような死に方ではなかっただろうと思います。そして、最後に残ったガンだけが、自覚的な死が可能なものということになります。やはり、死ぬならこれが一番です。

 私がこうした考えにいたったのは、慶應大学の近藤誠さんの一連の著作を読んだためです。『患者よ、がんと闘うな』(今なら文春文庫で読める)は氏の代表作といえるもので、1996年8月のDOHCでも紹介しました。その近藤さんが仏教家のひろさちやさんと共著で『死に方のヒント』(日本文芸社、\1500)を最近出版したので、今月はこの本を紹介しようと思ったのですが、やはり読んで面白いのは近藤さんお一人で書いた本です。そこで、1年前の本ですが、こっちを紹介することにしました。            (守 一雄)

【これは絶対面白い】

近藤誠『成人病の真実』

文藝春秋社(\1429)


 磁気共鳴撮影(MRI)という検査機器の進歩によって、「ラクナ梗塞」と呼ばれる脳梗塞の痕跡や破裂前の脳内動脈瘤が脳ドックで見つけられるようになっているのだそうだ。ラクナ梗塞が見つかれば、もっと重大な梗塞が起こる可能性が大であるから、脳梗塞の原因となる血栓ができにくくなるような薬を飲むことで予防ができる。一方、動脈瘤も放っておくと破裂して「くも膜下出血」の原因となるところだが、これも手術をして取り除く予防策がとれる。うーむ、脳ドックはすばらしい。というわけで脳ドックを受診する人が増えているのだそうだ。

 しかし、この本の著者の近藤氏は「脳ドックはNo,Doc(先生、結構よ)」だという。なぜか。それは確かに脳ドックで上記のような兆候が見つかるのだが、血栓を作りにくくする薬を飲むことも動脈瘤を手術で除去することも効果がないばかりかかえって危険だからなのだ。たとえば、我が信州大学医学部脳神経外科でも脳動脈瑠を除去する手術を数多く行っていて、その成果が医学雑誌(Surgical Neurology)に報告されているという。この論文によると310人に対し、未破裂脳動脈瘤のクリップ手術を行い、死亡したのはたった一人、fair(まずまず)good(良好)excellent(すばらしい)だったのは、それぞれ順に17人(5.5%)30人(9.7%)262人(84.5%)だった。これだけを見ると、「さすが信大医学部、見事な成績だ」と思ってしまうが、実はこれは医学者の使う言語感覚が異常であるせいなのだ。通常の意味で「手術が成功だった」と言えるのはexcellentの場合だけで、fairやgoodでは、後遺症が残って自力生活が不可能であったりするのだ。「死なないで済んだ」というレベルでも医者は「手術は成功」というのである。しかも、脳ドックで発見されるような無症状の動脈瘤のほとんどは放っておいても破裂したりはしないこともわかっているのだ。

 「だったら、脳ドックなんてなんのためにやるの?」という疑問が湧く。それは「患者のためではなく医者の仕事を増やすため」というのが近藤氏の主張だ。近藤氏の批判精神は徹底していて、そして健全である。その一方で、医学界の重鎮たちの「常識」がいかに不健全であるかがよくわかる本だ。医者に殺される前にこの本を読んでおこう。     (守 一雄)


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