第16巻第10号              2003/7/1
XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI-XVI

毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 
(c)KKロングセラーズ (右が新刊の「女性用」の表紙)

 昨年8月に公布された「健康増進法」が今年の5月から施行され、我が信州大学 も2ヶ月遅れでキャンパスが全面禁煙となりました。(といっても「キャンパス 内歩行禁煙」で、愛煙家の教官が研究室で喫煙することまでを禁止するところま では行っていないようです。)

 税収があるからなのか、タバコ農家などタバコ産業関係者からの圧力からなの か、日本政府が禁煙政策に消極的なのは世界的に有名です。それでも、タバコ追 放を目指す世界の流れに抗しきれず、今回の法律が作られたわけですが、スト レートに「禁煙法」とはせずに、なんやら曖昧な「健康増進法」という命名に なったところにまだ腰の引けたところが現れています。政府が本腰を入れれば、 タバコ離れを一気に進めることは簡単なはずなのですが・・・。

 それでも今回の措置を禁煙のきっかけにしようとする人のために、『DOHC月 報』2000年12月号を再録します。最近、女性用も出たのでI先生にプレゼントし よーっと。(守 一雄)

【これは絶対面白い】

アレン・カー『禁煙セラピー』

KKロングセラーズ(\900)


 タイトルの前には「読むだけで絶対やめられる」と書かれている。「セラピー」 といっても、特別な治療法や訓練法を用いるのではなく、本当にただ「読むだ け」なのである。著者のカー氏は、もともとは会計士だったそうで、禁煙治療を 専門とする医者でもなければ、心理学者でもない。カー氏は、自分自身が33年間 もヘビースモーカーだったのだが、ある日この「奇跡の禁煙法」を見つけたのだ という。それは、眠っていた人が目を覚ますのと同じように、「喫煙するよう 『洗脳』されている状態」から目覚めることだったのだ。(こういったエピソー ドは、新興宗教によく似ている。「教祖はある日突然、世界を救う方法を思いつ き、それを世の中に知らしめるための活動を始める」というお決まりのパターン である。そこで、「眉につば」をしながら読んでいったのだが、どうやら「宗 教」だとしてもこの宗教は「ご利益」がありそうである。)

 本当は、このセラピーのためには、この本を全部読まなければいけないのだ が、あえてこの本のエッセンスを述べてしまうと、次の2行になる。
   (1)もう二度と吸わないと決意する。
   (2)禁煙したことを喜ぶ。
 たったこれだけのことだが、この2行を心の底から納得できれば、禁煙も成功 するにちがいない。著者はこの本を通じて、禁煙を試みる読者にこの2点を説得 しているのだ。

 心理療法の分類にしたがえば、このやり方はエリス(A.Ellis)の「論理療法 (rational emotive therapy)」に該当するのではないだろうか。喫煙習慣という 問題は、「タバコはおいしい」とか「タバコはリラックスさせてくれる」とか 「タバコは集中力を高める」とかいう誤った信念(irrational belief)が引き起 こしているのであって、その信念を徹底的に論駁して、正しい信念に変えてやれ ば、問題は解決するというわけである。誤った信念を修正するだけなのだから、 本を読むだけでいいのである。

 そして、もう一つのポイントはポジティブシンキング(positive thinking)で ある。多くの喫煙者は、「禁煙はつらいものだ」という誤った信念も持ってい る。「禁煙とはガマンを続けることであり、そのガマンに耐えられた人だけが、 禁煙に成功する」と信じているのだ。しかし、カー氏はそうではないと主張す る。こうした「禁煙がつらいものだ」という考えそのものが「洗脳」の結果なの であって、「洗脳」から目覚めれば「禁煙」への恐怖もなくなるというのだ。確 かに、私たち非喫煙者はタバコなしで楽しく暮らしている。「タバコなしの生 活」がつらいものであるはずがないではないか。

 この本だけではまだ「洗脳」が完全に解けないという人には、ダメ押しとし て、山村修『禁煙の愉しみ』(新潮OH!文庫)も読むことを薦めておこう。私も 学生時代には不良ぶって大人への対抗心のようなつもりでタバコを吸ったりもし ていた。しかし、不良になるなら、タバコを吸うよりも、本を読む方がいい。 (この辺の論理は、永江朗『不良のための読書術』(ちくま文庫)を参照のこ と。)だから、今は、喫煙者ではないが、禁煙がこんなに楽しいものなら、「も う一度喫煙者になって禁煙をしてみようかしらん」と思ったりしたほどだ。

(守  一雄)


DOHCメニュー