第16巻第8号              2003/5/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 
文春文庫表紙 PIPER版の表紙

【これは絶対面白い】

R.デーゲン(赤根洋子訳)『フロイト先生のウソ』

文春文庫(\705)


学生 先生、こんな本を見つけたんですけど、もう読みましたか?

教授 ああ、読んだよ。面白い本だったんで、1日で読んでしまった。

学生 で、ここに書かれていることはホントですか?

教授 うむ、著者の言っていることは基本的に正しいと思うよ。「心理療法」とか「無意識」とか「臨死体験」とか「多重人格」とかは、どれもみんな科学的には「アヤシイもの」であることはよく知られたことだからね。

学生 でも先生、「教育」までその「アヤシイもの」に入れられちゃってますよ。

教授 そうさ、「教育」だって科学的にはアヤシイってことは私もいつも授業で言ってるじゃないか。先月号のDOHC月報でも『教育を経済学で考える』に「教育は幻想」って書かれてるのを紹介しただろ。道徳教育だってウソばっかりだ。

学生 うーん、でも教育学部の先生がそう言い切っちゃっていいんですかあ?大学院だって臨床心理士の第1種指定を受けたばっかりなのに・・・(カゲの声:うふふ、ちょっと宣伝。)

教授 「心理療法」も「教育」もいかにウソをうまくついて相手、つまりクライエントとか生徒とかその親とかを信じさせるかが最も重要なことなんだ。すべては「プラシボ効果」さ。

学生 でも、それをばらしちゃったらダメでしょ?

教授 ところがそうでもない。人間の心理はそう単純にいかないところが面白いんだな。だって、私が「教育はウソだ」と言っても、それがウソかもしれないだろ?臨床心理士会の大看板の河合隼雄さんだって自称「ウソの名人」を公言しているぞ。たくさんの心理学者が「血液型性格学はウソだ」ってこんなにも明言してきているのに、相変わらず世間では信じられているじゃないか。人はなんと言われようと「信じたいことを信じる」のさ。

学生 うーん、そういわれるとそうかもしれないなあ。そういえば、この本では「マスメディア」とか「能力開発」とかについても「ウソ」だって暴いているんだけど、フロイトってそんなことも言ってたんですか?

教授 ははは、まんまと騙されているな。この本の『フロイト先生のウソ』っているタイトルは、日本の出版社がつけたウソのタイトルだ。原題が小さくLexikon der Psycho-Irrtuemerって書いてあるだろ。

学生 でもこれ英語じゃないからどんな意味なのかわかりません。

教授 イッヒフンバルトデルウンヒ。これはドイツ語さ。『心理学のウソ事典』っていうくらいの意味かな。並の出版社なら、ちょっと気を利かせたつもりで『間違いだらけの心理学』とでもするところだろうが、思い切って『フロイト先生のウソ』としたところはお見事だな。背景にはフロイトの写真まで入れちゃって・・・

学生 原書の表紙はどうなってるんでしょうね?

教授 インターネットで調べればすぐわかるぞ。どれ、早速・・・と。

学生 あった!でも、この絵はなんですか?

教授 これは典型的な精神分析の様子だな。患者を長椅子に横たわせて、その傍らで分析家が話を聞いているところさ。ま、原書でも主たる批判の矛先は臨床心理というわけだな。

学生 『心理学のウソ事典』だけど、ウソの多くは臨床心理的なことだってことですね。

教授 ま、そうだな。だって、気がついたかい?この本の中で、たくさんの心理学のウソが暴かれているけれど、それぞれのウソがウソであることを証明している研究も心理学者による研究だってこと。心理学すべてが否定されているわけじゃないってことさ。否定されているのは世間一般で信じられているようなニセの心理学で、科学的な心理学研究はそれを正す役割を果たしている。だから原題も『心理学のウソ・ホント事典』ってしてほしかったなあ。この本は、科学的な心理学を知るための入門書としても最適な本だと思うよ。

学生 ホントかなあ?

教授 うむ、そういう健全な疑う態度を身につけるにもいい本だぞ。

(守 一雄)


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