第16巻第7号              2003/4/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 
(c)日本評論社

 新入生の皆さんご入学おめでとうございます。

 DOHC(Dokusho One Hundred Club)は、1987年の春に発足した読書クラブで す。「読書クラブ」といっても、特別な活動をするわけではありません。ただ読 書を楽しむだけです。ですから、「私もたくさん本を読もう」と思ったら、その 時からあなたもDOHCの会員です。あえて言えば、「1週間に2冊、1単位につき 2冊、本を読む」という「1212運動」が会員の唯一の活動です。1年は約50週で すから1週間に2冊で年100冊になります。また大学における1単位は1週間の 勉強時間(=45時間)に基づいていますから「1単位につき2冊」も「1週間に 2冊」も結局は同じことになります。

 この「DOHC Monthly」は、会員拡大のための宣伝を兼ねた書評ミニコミ紙で す。本は読みたいけど何を読んだらいいかわからないという人のために、【これ は絶対面白い】という本を毎月1回紹介してきています。「この本は面白いよ」 というDOHC会員からの情報も歓迎しますが、最終判断はあくまでも私が独断で 行っています。

 「DOHC Monthly」は、授業で配布したり、学内に掲示したりするほか、イン ターネットのウェブhttp://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.html でも公開しています。ウェブではバックナンバーも読めます。

 受験生はなかなか本が読めないものです。しかし、大学に入れば読書の時間が たっぷりあります。ぜひ読書の楽しさを知って、DOHCの会員になってください。  (守 一雄)

【これは絶対面白い】

小塩隆士『教育を経済学で考える』

日本評論社(\1800)


教授 四年生への進級おめでとう。就職はどうするの?

学生 あっと言う間に最終学年になってしまいました。公務員志望なんですが、 なかなか心理職は競争が厳しくて・・・

教授 教育学部なんだから教員になったらどうなんだい?

学生 ええ、でも学校とか教育とかってなんかウソくさいじゃないですか。

教授 たしかにそういう面はあるな。そういう君にはきっとこの本は面白いと思 うぞ。経済学者がきわめてドライに教育について論じた本だ。
 書名にあるように、教育の目的や機能を経済学的に「冷徹に」論じている。教 育と経済学ってあまり結びつかないだろ?だって経済学ってなんかお金儲けの話 ばっかりみたいだし、教育のほうはお金儲けみたいなことは徹底して嫌っているし。

学生 でもいい学校に入れるために教育にお金をかけたりするのも、結局はいい ところに就職することで元をとろうということなんだから、本音の部分ではお金 儲けと大いに関係しているんですよね。

教授 そう、そういう本音を隠して建前ばかりを論じているから「学校はウソっ ぽい」感じになっちゃうんだよな。その点、この本はスゴイぞ。そういう建前を 徹底的に排除して「教育の本質」を暴いているんだ。たとえば、経済学的に言え ば、教育は投資ということになるが、投資の効果がプラスになるのは一部の優秀 な子どもたちだけなんだそうだ。彼らは教育によってさらに優秀になるため、 「投資の効果」が大きい。ところが、実はそうでない大半の子どもたちにとって は、むしろ早めに「投資」を打ち切るほうがトクなんだ。

学生 だったら、どうしてたくさんの親が子どもの教育にこんなにも熱心になる んですか?

教授 著者によれば、「それは幻想のせい」だ。

学生 うーん、そこまで言い切っているとすると確かにスゴイ。そういえば、心 理学って就職にはあんまり役に立たないんですよね。僕も「投資」に失敗したの かもしれないなあ。

教授 うん、それを言われると弱い。でも、君は就職のことだけを考えて心理学 を選んだわけじゃないだろ?この本にも、教育には「投資」だけでなく、「学ぶ ことそのものを楽しむ」ような「消費」としての意義もあると書いてある。心理 学は学ぶことが楽しい学問なのさ。そうだろ? 

                  (『信濃毎日新聞』書評2003.3.30を再掲)


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