第15巻第8号              2002/5/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 「寒くない、暑くない、花粉飛ばない、まだ梅雨に入らない。」風薫る五月、自転車の季節です。一昨年の夏に疋田智さんの『自転車通勤で行こう』(WAVE出版)を読んで、クロスバイクを買い、自転車通勤を始めてみました。通常の徒歩と電車による通勤よりも時間がかからないし、適度な運動にもなるし、なにより自転車に乗るのはとても楽しいことがわかり、3ヶ月ほど続けたのですが、いくつかの理由により、「毎日の」自転車通勤はやめました。その理由の一つは、自転車通勤では本が読めないことです。電車の中でのわずか10分間、往復で20分間の読書時間ですが、毎日となるとこれをなくすことは大きな痛手です。もう一つの問題点は事故の可能性です。通勤経路のほとんどは歩道が整備された広い道なのですが、それでも危険箇所は多く、自転車を無視する右折左折車や、側道からいきなり出てくる車に何度も怖い思いをさせられました。冬場はどうしても夕方は暗くなりますので、危険度は一層増します。そんなわけで、自転車通勤は週に1回土曜日だけにしました。土曜なら明るいうちに帰れるからです。そして今、季節も最高。土曜日が待ち遠しい毎日なのです。

 疋田さんは東京赤坂のテレビ局に勤めるサラリーマンで、江東区からの片道約12kmを毎日自転車で通勤しています。その体験を基に書いた本が『自転車通勤で行こう』で、今回の本はその続編、実践応用編です。前の本で私の生活を変えてしまった疋田さんですが、疋田さん自身も前の本を書いて以来、ずいぶん生活に変化があったようです。ホームページ(http://www.hoops.ne.jp/~japgun/)を開いたり、国会の諮問機関の委員になったり、と「自転車カクメイ」を起こそうと張り切っています。そのために書いた続編がこの本です。実は一カ所私のこととおぼしき記述もあります。前著と併せてぜひお読みください。                                (守 一雄)


【これは絶対面白い】

疋田 智『自転車生活の愉しみ』

東京書籍\1700


 百メートル走の世界記録が10秒弱だから、時速になおすと36km/hである。長距離の一流選手は百メートルを18秒くらいで走る。これで時速20キロである。現代では、クルマを使えば誰でも簡単に時速100キロで走れるようになったが、それは生身の身体には不自然なことである。だから、事故を起こせば死んだり大けがをしたりしてしまう。しかし、人間にとって自然なスピードである時速20キロから30キロまでならば、ぶつかっても身体の柔らかさがショックを吸収できる。ろくに防具をつけていないサッカー選手が激しくぶつかっても大けがをしないのも、彼らは「自力で」走っているだけだからだ。時速20キロは「安全速度」なのである。

 一方、時速20キロはほとんどの人にとって、実用的な移動速度でもある。時速20キロということは、「20キロ圏内ならどこへでも1時間以内で移動できる」ということだ。実は、高速道路では軽く100キロが出せる自動車だって、ふつうに街中での移動手段に使うとせいぜいが時速20キロ程度にすぎない。(ただし、自動車は自重が1トンもあるため、たとえ時速20キロでぶつかったとしても衝突のエネルギーは人にとっての「安全」レベルを超えてしまう。)

 そこで、誰もが一流長距離選手の脚力を持っていれば、日常生活での「安全で実用的な移動」は「走る」だけですむことになる。考えてみればそれはきわめて当然のことである。私たち人類は何十万年もそうした移動手段で生活してきたのだ。移動速度が「不」自然に高まったのはせいぜいこの百年程度のことにすぎない。時速20キロの生活はきわめて自然なのである。そして、この時速20キロの生活は、一流長距離選手でなくとも、自転車に乗れば実現できる。

 本の帯には、「それは、ちょっとした革命。」とある。危険きわまりないクルマから私たちの生活の安全を取り戻し、なおかつ、実用性を維持する、それはクルマ社会を自転車社会に変えていくことで実現できるのだ。現に、自転車先進国のオランダなどでは自転車を中心とした社会が実現しているのだという。話題がエネルギー問題や環境問題になると気分が落ち込んでくるのだが、この本では読んでいて元気がでてくる。語られている夢が明るい。もう一押しで本当に革命が起こりそうな気がする。   (守 一雄)


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