第15巻第7号              2002/4/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

  新入生の皆さんご入学おめでとうございます。

 DOHC(Dokusho One Hundred Club)は、1987年の春に発足した読書クラブです。「読書クラブ」といっても、特別な活動をするわけではありません。ただ読書を楽しむだけです。ですから、「私もたくさん本を読もう」と思ったら、その時からあなたもDOHCの会員です。あえて言えば、「1週間に2冊、1単位につき2冊、本を読む」という「1212運動」が会員の唯一の活動です。1年は約50週ですから1週間に2冊で年100冊になります。また大学における1単位は1週間の勉強時間(=45時間)に基づいていますから「1単位につき2冊」も「1週間に2冊」も結局は同じことになります。

 この「DOHC Monthly」は、会員拡大のための宣伝を兼ねた書評ミニコミ紙です。本は読みたいけど何を読んだらいいかわからないという人のために、【これは絶対面白い】という本を毎月1回紹介してきています。「この本は面白いよ」というDOHC会員からの情報も歓迎しますが、最終判断はあくまでも私が独断で行っています。

 「DOHC Monthly」は、授業で配布したり、学内に掲示したりするほか、インターネットのウェブhttp://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.htmlでも公開しています。ウェブではバックナンバーも読めます。

 受験生はなかなか本が読めないものです。しかし、大学に入れば読書の時間がたっぷりあります。ぜひ読書の楽しさを知って、DOHCの会員になってください。  (守 一雄)


【これは絶対面白い】

池谷裕二『記憶力を強くする』

講談社ブルーバックス\980


 記憶術を紹介したハウツー本ではない。本書のタイトルは副題にあるように『最新脳科学が語る記憶のしくみ』とすべきであったと思う。脳がどのようなしくみで記憶しているのかについての最新の内容を含んだ入門書である。これは面白い。これはスゴイ。

 入門書といっても、第一線の現役研究者が書いたもので、最新の研究成果が紹介されていて内容的には専門書レベルである。著者はまだ30歳のバリバリ現役の研究者で、著者自身が「おわりに」に述べているように、この種の本の著者としては例外的に若い。

 理系の研究者はどんなにいい一般書を書いても評価されない。それよりも研究論文を書き、それぞれの研究分野における最も権威のある研究誌か、『Nature』『Science』といった一流科学雑誌に論文を掲載することに全勢力を注ぎ込むべきだとされている。だから、こうした入門書や啓蒙書を書くのは、第一線を退きつつあるベテラン研究者や、立花隆のような科学ライターということになる。落合博満や掛布雅之の野球教室はそこらじゅうでやられていそうだが、この本はイチローや松井秀喜の野球教室みたいなものなのだ。

 ベテラン研究者や科学ライターは、視野も広く、一般読者の理解できるレベルにあわせて書く技術にも長けているので、門外漢の読者にはむしろこうした書き手が書いたものの方がわかりやすいということもあった。しかし、著者の池谷氏はこの点でも一流の科学ライターに負けていない。第1章の導入から頂上の第5章のLTPまでの登山道も楽しめるし、その後の応用編の第6章や将来展望が書かれた第7章第8章と続く道もおもしろい。「イチローは教え方もうまかった」ということだ。

 唯一の気がかりは、こんなにも優秀な研究者がこうした本を書くことにエネルギーと時間を割いてしまって大丈夫だろうか、研究や論文を書くことに悪影響はないか、ということだ。しかし、おそらくそれも杞憂にすぎないのだろう。この本の元となった記憶の話が著者のホームページ(http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~ikegaya/ikegaya.htm)に公開されているが、一流の研究者はこうした情報発信にも熱心なのだ。投稿中の研究論文だけでも10本もある。結局、「一般書なんか書いていると論文が書けなくなる」とか「研究に忙しくて一般書なんか書けない」とかいうのは、優れた論文やわかりやすい一般書が書けない凡人研究者の言い訳にすぎないのだろう。できるヤツは両方やってもへっちゃらなのだ。

 記憶と言えば心理学者の研究テーマだったのだが、今や最新の研究は脳科学者の手に移ってしまった。そうした中で、心理学者ヘブ(D.O.Hebb)の学説が高く評価されているのはうれしい。少しでもあやかれるよう私の研究室のパソコンのドメイン名もhebbにしてあるし、実はこのDOHCもヘブ愛好会(D.O.Hebb Club)の略でもあるのだ。 (守 一雄)


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