第15巻第6号              2002/3/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。社会へ出てからもぜひDOHCの会 員を続けてください。卒業前の1冊として以下の本を紹介します。

   槌田さんの本は新刊が出たらぜひ紹介しようと思っていたのですが、この本は 気づくの遅くなってもう4年前の本になってしまいました。それでも内容的に古 くなったことはなにもありません。それどころか「現代の常識」を覆すような 「新しい視点」が満載されています。

   「新しい」と言っても、槌田さんはもう20年以上も前から指摘し続けてきてい ることです。その「新しい視点」というのは、一言で言えば、「現代の環境保護 運動は間違っている」ということです。多くの善意ある人々がよかれと思って取 り組んできたリサイクル運動は、結局従来のリサイクルの仕組みを破壊しただけ でした。なぜ、環境保護運動が間違いなのか。なぜ、間違った環境保護運動が推 進されてきているのか。私たちは本当はどうするべきなのか。それらに対する解 答がこの本にあります。副題にあるように「サルとして感じ、人として歩め」と いうことですが、具体的な内容についてはぜひこの本を読んでください。あなた が大学で学んだ知識は間違いだったかもしれませんよ。(守 一雄)

 


【これは絶対面白い】

槌田 敦『エコロジー神話の功罪』

ほたる出版\1,800

 タイトルにある「エコロジー神話」とは、「環境保護運動(=エコロジー)に おけるウソ」のことである。正しくないにもかかわらず、多くの人が信じている ことを「神話」というが、実は多くの場合、間違いに気づいている人もたくさん いるのだ。しかし、そのウソを指摘する人はマレである。もしかするとこの槌田 さん1人だけかもしれない。

   エコロジーは生態学とも訳され、生物学との関連が深いが、物質循環という目 で見れば地球物理学の問題であり、汚染物質の化学組成を考えるためには化学の 知識も必要とされる。一方、こうした自然科学的な知識だけではエコロジーは語 れない。自然科学的に正しいことと私たち人間の社会活動とは必ずしも一致しな いからだ。人間の社会活動、特に経済活動が地球環境に与える影響力はきわめて 大きい。そこで、エコロジー問題の専門家には物理学から経済学までの幅広い知 識が必要とされるのだが、なかなか両方に通じた学者がいないのだ。しかも、ウ ソだとわかっていても指摘しないような「御用学者」も多い。槌田さんは体制や 時流にも流されないきわめてマレな存在なのだ。

   本書から一つだけ具体例を紹介しよう。「アルミ缶はリサイクルの優等生」と いうのはウソである。「アルミは溶解が容易なので、鉄よりも再利用が容易であ る。」この物理学的知識は正しい。「アルミは鉄やガラス瓶よりも軽いので、容 器として使うと運搬のためのエネルギーが節約できる。」この知識も正しい。 「アルミはボーキサイトから精製する際にはきわめて多量の電力を必要とする。 それがリサイクルならばずっと節約できる。」これも正しい。さらに、「アルミ 缶は自治体が中心となって住民がボランティアで回収しているため、回収コスト があまりかからない。」この経済的な知識も正しい。では、「低コストで回収し たアルミ缶から再びアルミ缶を作る方がボーキサイトから新しくアルミ缶を作る よりコストが安いか」というとそうではないのだ。アルミ缶をリサイクルするた めには空き缶を運搬する必要があるが、空き缶の運搬は「ほとんど空気を運ぶよ うなもの」だから意外とコストがかかり、さらには不純物を取り除いたり、缶を 裁断したりするコストも含めると、新しく作る方が安くなってしまうのだ。これ が経済学の知識である。

   アルミ缶をリサイクルする方が新しく作るよりもお金がかかるとすれば、アル ミ缶製造業者はリサイクルに反対するかというと、これもそうではない。たとえ リサイクルで損をしても、「アルミ缶はリサイクルの優等生」という神話のせい で、アルミ缶そのものの需要が増えればアルミ缶製造業者は儲かるのである。こ れも経済学の知識である。だから、両方に精通していないとウソが見抜けないの である。

   最後に一つ、人々は「アルミ缶をリサイクルするとまたアルミ缶になる」と思 っているが、実はそれは消費者の勝手な思いこみにすぎない。アルミ缶もペット ボトルも牛乳パックもリサイクルされても元には戻らないのだ。人は自分に都合 がいいように思いこみをしてしまう。これは心理学の知識である。 (守 一雄)

 


発行後に「最近はアルミ缶からアルミ缶へのリサイクルも進んでいるぞ」という情報をいただきました。 以下のアルミ缶リサイクル協会のURLをご覧下さい。(守:追記2002.3.1) DOHCメニュー