第15巻第4号              2002/1/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 新年あけましておめでとうございます。今年もDOHCをよろしくお願いします。

 21世紀も2年目に入ってしまうと、20世紀はもう「前」世紀で相当昔のような気がしてきます。特に、昨年は9月にアメリカで歴史的なテロ事件が起こり、「9月11日を境に世界が変わった」と言われるほどですから、20世紀はもう本当に昔になってしまったのかもしれません。

 その20世紀の最後に脳研究が急速に盛んになったため、1990年代は「脳研究の10年」と呼ばれ、来るべき「脳の世紀」に向けて脳の世紀推進会議が作られたりもしました。そしていよいよ「脳の世紀」といわれる21世紀になったわけです。

 特に意識したわけではありませんでしたが、振り返ってみると「脳の世紀」の1年目の今年、脳に関わる本を読む機会も多かったようです。(昨年出版した『コネクショニストモデルと心理学』(北大路書房)にも「脳のシミュレーションによる心の理解」という副題でしたし・・・と、ちょっぴり宣伝。)そうした本の中から一番面白かったこの本をオススメすることにしました。                    (守 一雄)


【これは絶対面白い】

中田力『脳の方程式 いち・たす・いち』

紀伊国屋書店\1,800

 「脳の方程式」とはいったい何か?それより「いち・たす・いち」って何のことか?

 脳は一千億個もの細胞からなり、私たちの身近なものの中でまちがいなく最も複雑なものである。しかし、もしかするとその複雑怪奇に思われる脳の基本原理は驚くほど単純で、たった一つの方程式に書き表すことができるのかもしれない。

 脳も不思議だが、この本も不思議な本である。簡単なことと難しいことが混在していて、読んでいてわかったりわからなかったり・・・それでも、どんどんと読み進めることができ、ちゃんとときどきは「なあるほど」と思わせてくれる。わかった気にさせて楽しませてくれるのだ。

 難しいことも書かれているのに、読み進んでいけるのは、一つひとつのトピックがある程度独立していて、3ページ程度にまとまっているからだ。関連する項目のいくつかは巻末にメモとしてこれまたわずか1ページに納められている。この長さなら、少しくらい難しいと思ってもトピックの最後まで文字を追うことはできる。

 脳の話ではあるが、トピックとして取り上げられているものは多彩である。いろいろな天才の逸話。物理学や数学の話題。そして、先端科学のたくさんのキーワード。こんなにもいろいろな学問の最先端がみんな脳の研究につながっているのも本当に不思議なことである。だからこそ、脳の理論を理解するためには、「すべての学問に精通しなければならない」のだ。しかし、そんな人は世界中を探してもそうたくさんはいない。

 では、私たち凡人は脳理論を楽しめないのかというと、そうではない。この本の著者のようなすべての学問に精通した人が「すべての人が理解できるように」こうした本を書いてくれるからだ。もちろん、上にも書いたように「わかった気にさせて」くれているだけなのだが、知を楽しむとは結局そういうことだ。こんな話が自在に書ける著者をうらやましく思いつつ、知を楽しんでいる自分をうれしく思いつつ、新しい世紀の2年目を迎えたいと思う。                             (守 一雄)


【お年玉プレゼント】
 なかなか洒落た装丁でタイトルも魅力的なので書店で手にとってすぐに購入していたのだが、新聞の書評でこの本が紹介されていたのを読んでインターネットでも注文してしまった。だから、今、手元に2冊ある。そこで、オフィスアワーに私の研究室に来て、最初に「いちたすいち」と言った人に余っている1冊を「お年玉」として贈呈することにする。早い者勝ちだ。

 


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