第15巻第2号              2001/11/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


【これは絶対面白い】

杉田聡『クルマを捨てて歩く!』

講談社\780

 ガーン!これは衝撃です。なんでこんなことに気がつかなかったのでしょう か。読み出してすぐ頭の中がガタガタと揺さぶられる感じがして、そして、読み 終わって、しばらく私は呆然としていました。「なんということだろうか。こん なにも当たり前のことに気づかなかったなんて。」【これは絶対面白い】といっ て毎月、面白い本を紹介してきていますが、この本ほどの衝撃を受ける本はめっ たにないと思います。

 クルマって本当に不思議な存在です。なぜこんなにも危険なものを私たちの社 会は受け入れてしまったのでしょうか?私たちはいつの間にかパンドラの箱を開 けてしまい、そのことに気づいてもいないのではないでしょうか?

 「クルマは走る凶器である。」そんなことは誰でも知っている・・・と思って いました。しかし、実際にはその恐ろしさが全然理解されてはいないのです。私 たちの社会全体がすっかり騙されているのだと思います。「洗脳」されているよ うなものです。ニューヨークのビルがテロで破壊され、6千人もの犠牲者が出ま した。罪もない人々が6千人も犠牲となった「歴史に残るような大事件」だと言 います。しかし、「6千人の犠牲者」はこの日本で毎年日常的に起こっているの です。だって、日本では毎年、自転車に乗っている人を含む歩行者が、約6千人 も「クルマに殺されている」のですから。しかも、これは毎年のことです。その うち、子どもが約5百人です。これも最近の「大事件」と比べるとその異常さは 桁違いなのです。毎年、附属池田小学校の「児童全員が殺されている」ようなも のなのですよ。ところが、これが一番恐ろしいことなのですが、にもかかわら ず、交通事故は「大事件」どころか「事件」にもならないのです。どうしてこん な不可思議なことになっているのでしょうか。

 私たちが快適な社会と思ってその実現を目指してきた「クルマ社会」は、こん なにも異常な世界だったのです。クルマ以外の他のことだったなら、ここまで非 常識なことが許されないはずのことが、この他にもたくさんあることを、この本 の著者の杉田さんは指摘しています。「レールの上を走っていてスピードの調節 をするだけの電車の運転士は誰でもなれるわけではないのに、レールがなくずっ と危険なクルマの免許は国民の半数が取れるほど簡単なのはなぜなのでしょう か?」「横断『歩道』と言いつつ、車道にゼブラ模様を描いただけなのはなぜな のでしょうか?」「『交通安全教育』をドライバーにするのではなく、どうして 犠牲者になる子どもたちの側にするのでしょうか?」「誰かを殺してしまうこと を前提にした保険(自賠責保険)が堂々とまかり通っているのはなぜなのでしょ うか?」教育学部の誰も考えなかったこんな疑問も投げかけられています。「子 どもの敵であるクルマで教師が堂々と通勤しているのはどういうことでしょう か?」

 私はこの本を読んでから、まだ一度もクルマを運転していません。しかし、こ こで「クルマを捨てる」と宣言してしまう決心はまだついていません。それで も、なるだけ乗らないようにしようと思います。そして、クルマの使い方につい ても考え直すことにしました。今も基本的には電車通勤なのですが、少し体調が 悪かったり、天候が悪かったりするとクルマで通勤することがありました。しか し、考えてみれば、「体調が悪いときにクルマを運転する」というのは、「事故 を起こしやすい時にクルマを運転する」というようなものです。歩行者の立場か ら考えると多くのドライバーが「体調の悪いときに運転している」というのはぞ っとする話です。これからは「体調の悪いときほど」むしろクルマを使うのを控 えようと思います。(こんな当然のことを逆に考えてしまうほど、クルマの魔力 は大きいということです。)それでも、やむを得ずクルマを運転することもある でしょう。そのときは、今まで以上に慎重に運転しようと思います。クルマを運 転することは「人を殺すかもしれないことをすることなのだ」と肝に銘じて。

                                (守 一雄)


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