毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)
教授:そうじゃないんだ。この本の著者の鈴木孝夫さんだって、英語がすべて不要と言っているわけじゃない。ポイントは「英語」に2種類あるってことさ。そのうちの一つは重要で、ぜひ学ばなければならない。しかし、もう一つの「英語はいらない」ってこと。
学生:わかった!いわゆるイギリス英語とアメリカ英語ですね。もうアメリカの時代だからアメリカ英語は重要だが、「イギリス英語はいらない」っと。
教授:いやそうじゃない。国名を付けて言うなら、いらないのはアメリカ英語もイギリス英語もだ。カナダ英語もオーストラリア英語もインド英語もいらない。
学生:ええーっ。じゃ、どこの英語が必要なんですか?
教授:そうだなあ、あえていえば、それは「日本英語」かな。
学生:な、なんですか?その「日本英語」っていうのは?
教授:国名で分類するより、著者の鈴木孝夫さんの分類を言おう。それは、イギリス人やアメリカ人などのネイティブスピーカーが使う英語は不要で、外国語として学ぶような国際共通語としての英語が重要だということだ。この国際共通語としての英語を今までの英語Englishと区別してEnglicと呼ぶ。Englicは「英語みたいな言葉」という意味だ。
学生:その「英語みたいな言葉」っていうのは、本当の英語とどう違うんですか?
教授:国際共通語のEnglicはエスペラントみたいなものさ。エスペラントって聞いたことがあるだろう?
学生:ポーランドの誰とかが国際共通語として作った人工言語ですよね。
教授:そのとおり。この人工言語はアイデアは良かったんだが、結局広まらなかった。代わりに実質的な国際共通語になったのは英語だったわけだ。
学生:あーあ、イギリス人やアメリカ人はいいよなあ。自分の言葉がそのまま世界共通語でもあるんだから。アメリカ人に生まれればよかったなあ。
教授:おいおい、そう考えるからダメなんだ。鈴木孝夫さんは逆にこう考えるのさ。「日本語がそのまま世界共通語だったらよかったのになあ」と。
学生:え、でもそれはさすがに無理でしょ。
教授:でも日本人が大挙して押しかける世界の観光地では日本語が通じるだろ。要は力関係なのさ。しかし、そうはいっても、現状では国際共通語が英語であることは動かしがたい。だから、やはり日本人も英語を勉強しないとダメなんだ。
学生:なんか英語ばっかりズルイなあ。日本人は損だなあ。
教授:そうだろう。そこで、鈴木孝夫さんは英語を母語とする人たちも少し困難を分担してもらおうと主張するんだ。英語を母語としない人が使いやすいように次のようなルールを決めて、ネイティブスピーカーにも従ってもらう。
1)英語(English)の不規則な変化(動詞や名詞など)を無視する。
2)イディオム(慣用表現)は使わない。
3)やさしい動詞と前置詞の組み合わせは使わない。
4)早口は禁止する。
学生:うーん、ボクが英語で苦手だと思っていることばかりだ。
教授:そうだろ。だから、逆にこういう英語、つまりEnglicなら日本人にもやさしい。つまり、Englicは「日本英語」ってことでもある。
学生:こんな英語なら、勉強にも希望が持てますね。ついでに「LとRを区別しなくてもよい」っていうルールも作ってほしいですね。
教授:そう、日本人と話すときは「LとRが弁別できなくてもわかるような言い方をしなければならない」というルールにすればいいんだな。
学生:わーい、Engric万歳!
(守 一雄)