第13巻第12号              2000/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 数年前から信州大学教育学部では前期の授業を7月一杯までやって前期を終わらせてしまい、8月9月を夏休みにするようになりました。そこで、9月1日はまだ夏休みの折り返し点なんですが、子どもの頃に身に染み込んだ記憶は消しがたく、8月31日というのはなんだかとっても憂鬱な気分になります。(これを書いている今はまだ8月31日です。)

 さて、本当に夏休みが終わる今年の10月1日は、5年に一度の国勢調査の日にあたります。といっても、調査は9月中から始まりますので、今月号のDOHC月報ではこの本を取り上げることにしました。(もっとも、この本で取り上げられている「社会調査」は、基本的にサンプリング調査で、全数調査である国勢調査とは違います。この本の中で、国勢調査がウソだと言われているわけではありませんので念のため。)


【これは絶対面白い】

谷岡一郎『「社会調査」のウソ』

文春新書\690


 冒頭からきわめて挑戦的な言葉が書かれている。

「この本は少々過激な内容である。多くの社会調査が実名で批判されており、その数は五十以上にのぼる。ちなみに実名で批判した人々には、反論があればお答えすることを約束する。(中略)ずさんな調査(すなわち「ゴミ」)をまき散らしている人々のうち、血圧の高い人は読まない方が無難である。」(p.7)

 私はここを読んだだけで、この本は面白いに違いないと確信した。そして、読んでみたら、予想通りに面白い本だった。(実は、著者の谷岡一郎氏の本は他にも読んだことがあり、著者が谷岡氏だというだけで面白い本であることは予測がついていた。たとえば、同じ著者による『ギャンブルフィーヴァー』(中公新書)も大変面白い本であった。新刊の際に気づかずにいて、DOHC月報で紹介する時期を逸してしまったが、ここで併せて推奨しておくことにする。)

 タイトルにもあるように、この本の主張は、「世の中に蔓延している「社会調査」の過半数がゴミである。」というものである。第1章のタイトルは、「社会調査はゴミがいっぱい」で、「学者が生み出すゴミ」「政府・官公庁が生み出すゴミ」「社会運動グループが生み出すゴミ」「マスコミが生み出すゴミ」となっている。

 実は、私も『KR(教心研レビュー)』というこの『DOHC月報』の姉妹誌で、教育心理学の論文批判をやっているが、さすがに「この研究はゴミだ」とまでは言わないようにしている。ところが、この本はもうハッキリとゴミと言い切るのだ。これはすごい。第3章「研究者と調査」で述べられている学者・研究者への批判も手厳しい。「国立大や有名私立大学の教授(大御所)は、血圧が上昇する可能性もあるので気をつけられたい。」

 著者は批判だけをしているのではない。副題に「リサーチ・リテラシーのすすめ」とあるように、一人ひとりが社会調査についての方法論を知り、ゴミを見分ける力をつけるべきだというのである。そのための提案も第5章でなされている。

 教官数100人を越える教育学部教授会の意見聴取をするといって、電子メールで意見を募り、意見を出した6人中4人が反対意見だったことから、「学部には反対が多い」と言い切る学部長補佐にもぜひこの本を読んでもらいたいものだ。

 誤植発見!「目次」のページの第一行目が、「数字の詐術/目次」となっている。どうやら、出版直前までは、書名が『数字の詐術』だったらしい。ここだけ校正するのを忘れたようである。しかし、『数字の詐術』よりも、『「社会調査」のウソ』の方がずっとインパクトのあるいいタイトルだと思う。その証拠に、たまたま私の周りにいた5人の学生たちに聞いても80%が「そうだ」と答えていた(笑)。  (守 一雄)


 これを発行後に、社会調査の専門家である鈴木督久さんによる否定的な書評があることに気づきました。この書評もぜひお読み下さい。(2000.9.4)
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