第13巻第10号              2000/7/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 この本を紹介することには少しためらいもありました。

 本当は、7月号では坂本信一『ゴミにまみれて:清掃作業員青春苦悩篇』(ちくま文庫\640)を紹介するつもりでいました。市役所の清掃作業員として働く著者が、清掃作業員への差別・蔑視と向き合い、自分自身の心の中にもある清掃作業への軽蔑心と闘いながら、大量消費社会におけるゴミ問題について現場から問題提起をしている本です。

 しかし、後から読んだこの本の衝撃で「これは絶対面白い」の主役の座はこの本に奪われてしまったというわけです。それでも、「ゴミの本」もボディーブローのように後で効いてきます。ぜひ両方とも読むことをお勧めします。         (守 一雄)


 
画像をクリックすると「腰巻き」を外したカバーが見られます。

【これは絶対面白い】

松沢呉一『売る売らないはワタシが決める:売春肯定宣言』

ポット出版\1,900


 厳密に言うと、松沢呉一氏の単著ではなく、執筆者は「自称風俗ライター」松沢氏を含む11人で、個人売春をしている女子大学院生とか、ゲイの売春夫とか、ニューハーフのヘルス嬢(?)とか、性感マッサージ嬢でAV女優の作家とか、そうそうたる顔ぶれである。執筆陣には、この領域の第一人者東京都立大学の宮台真司助教授も加わっている。

 こうしたセックスワークの実体験が豊富な「現場作業員」たちが、そうした現場をほとんど知らない売買春の否定論者たちのずさんな論理を徹底的に批判しているのである。批判される側には、これまたこの領域の第一人者である東京大学の上野千鶴子教授をはじめ、臨床心理学者の大将、河合隼雄氏、「もてない男」だったはずなのに裏切って結婚しちゃった大阪大学の小谷野敦助教授など、こちらもそうそうたるメンバーが並んでいる。我が信州大学医療短期大学部の立岩真也助教授も批判される側に名を連ねている。

 と言っても、批判される側が同じ土俵に上がって論を闘わせているのではなく、既に公刊されている言説に対し、松沢氏たちが一方的に批判をしているにすぎない。そこで、批判された側からの反論が欲しいところであるが、批判された側が土俵に登ってくることはおそらくありえないだろうと思う。というのも、ほとんど反論の余地がないほどに見事に批判されちゃっているからである。「黙殺する」以外に有効な対応策はないだろう。

 さて、それでは自明とも思える「売買春がいけないこと」という主張が、なぜ批判され、反論の余地もないほどに叩きのめされてしまうのだろうか。それは、売買春の中身であるセックスそのものを悪とすることができないからだ。「金銭のやりとり」も自由主義経済を認める限り否定できない。「妊娠や病気の心配」、「ヤクザや暴力団の介在の可能性」の問題も所詮は副次的なことである。最後の逃げ道の「法律違反だからいけない」というのも同語反復に等しい。現に、松沢氏らは「売買春を合法化しろ」と主張している。どう考えても、肯定論者の論理のほうが筋が通っているのである。

 結局のところ、有効な反論ができない我々「自称良識派」は、「本人たちが好きでやっているのなら、好きにすればいいさ。避妊や病気やヤクザに気をつけてね。私はイヤだからやらないけどね。そして、そうしたことをする人たちを軽蔑するだけのことさ。」と言う以外にない。親や教育者であれば、そうした「人から軽蔑される職業」に就かせたくないし、だからそうした職業を嫌悪し軽蔑するように教育したいと思う。              ○     ○     ○

 しかし、ここでまた、清掃作業員のことが頭に浮かんできてしまうのだ。清掃作業員に対しては、「私はイヤだからやらないけどね。そして、軽蔑するだけのことさ。」とは口が裂けても言えない。好き嫌いで職業差別をしてはいけないのだとすれば、この最後の砦さえ、守り抜くことはできないのである。「誰か助けてー。」     (守 一雄)


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