第13巻第8号              2000/5/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 教育学部という学校教員を養成する学部で教育心理学を教えている私ですが、根っからの器用貧乏が災いして、いろいろなことに首を突っ込みすぎ、自分の本来の仕事を見失っている感があります。そうした中で、今月紹介する本の著者たちは「教育心理学の王道を行く」といった感じです。最初の本の著者、伏見さんは次の本の著者グループの一員でもあり、このグループの麻柄さん・進藤さん・立木さんたちは、皆、かつて東北大学教育学部で細谷純先生の薫陶を受けた教育心理学者です。私もこういう研究をやらなければと思いつつ、目標に掲げるばかりでなかなか実行には移せないままでいます。せめてこうした本を紹介して、卒業研究のお手本としてもらったり、教育実習の教案づくりのヒントとしてもらいたいと思います。卒業研究のテーマ選びにはちょっと遅かったかもしれませんが、教育実習には間に合いますので、ぜひ読んで下さい。        (守 一雄)


【これは絶対面白い】

伏見陽児『心理実験で語る授業づくりのヒント』

北大路書房\1,800

授業を考える教育心理学者の会
『いじめられた知識からのメッセージ』

北大路書房\1,800


 『授業づくりのヒント』では、小学校の教科学習に関連する心理実験の紹介を通して、どのように教えたらいいのかのヒントが述べられている。といっても、著者が「はじめに」の部分であらかじめ断っているように、教科学習領域のすべてを取り上げているわけではない。それは、心理実験という形で研究できる教科学習領域がどうしても限られてしまうからである。しかし、その分、厳選されて紹介された心理実験の切れ味はどれもとても鋭い。そして、そうした心理実験から得られた教え方のヒントはいろいろな学習領域に応用できると思う。

 「授業づくりのヒント」というと、ゲームを取り入れたり、グループ学習をさせたりといった授業形態に関心が向けられがちだが、それは子どもたちの学習意欲を高めるための補助的な手段にすぎない。どんな工夫をすれば「子どもたちが授業に参加してくれるか」ではなく、「子どもたちが理解できるようになるか、知識を深められるか」が本当の「授業づくり」であるはずである。知識をいかに与え、いかに組み替えるかが重要なのである。この本では、「理解や知識を深めるためのヒント」が紹介されているのだ。

 子どもたちに「興味・関心・意欲」を持たせるためには、知識こそが大事なのだ、というこうした主張を前面に押し出した書名を付けたのが、『いじめられた知識からのメッセージ』である。世間では、「知識重視の教育を改めて、学校をもっと楽しいところにしよう」という主張がなされることが多い。学校教育の問題点の多くが「詰め込み教育」や「知識偏重」など、「知識」のせいにされ、「知識」が悪者にされいじめられている。しかし、この本の著者たちは、“ホントは知識が「興味・関心・意欲」を生み出す”のだということをいろいろな事例を紹介しながら繰り返し述べるのだ。これこそが、「いじめられた知識からのメッセージ」である。

 「知識が感動を生む」という著者らの主張もその通りだと思う。地球が太陽の周りを公転していることや太陽と地球との距離については知っていたが、この本を読んで、「はるかかなたに見える太陽のさらに先、ちょうど2倍の距離まで行ったところに、半年前にはこの地球があったのだ」ということに気づいたときには私もちょっと感動した。この地球は本当に宇宙を航海する「宇宙船地球号」なのだということも実感できた。

 知識を得ることの楽しさを知ると、それを伝えることも楽しくなる。この本を読むと、教育実習が楽しみになり、きっと教師になる意欲も湧いてくるはずである。(守 一雄)


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