第13巻第7号              2000/4/1
XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII-XIII

毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 新入生の皆さんご入学おめでとうございます。

 DOHC(Dokusho One Hundred Club)は、1987年の春に発足した読書クラブです。特別な活動は一切していませんが、「私もたくさん本を読もう」と思ったら、その時からあなたもDOHCの会員です。「1週間に2冊、1単位につき2冊、本を読む」という「1212運動」が会員の唯一の活動です。1年は約50週ですから1週間に2冊で年100冊になります。また大学における1単位は45時間の勉強時間(=1週間の勉強時間)ですから「1単位につき2冊」も「1週間に2冊」も結局は同じことになります。

 この「DOHC Monthly」は、会員拡大のための宣伝を兼ねた書評ミニコミ紙です。本は読みたいけど何を読んだらいいかわからないという人のために、【これは絶対面白い】という本を毎月1回紹介してきています。「DOHC Monthly」は、授業で配布したり、学内に掲示したりするほか、電子メールで全国の会員にも配布されています。研究室(教育学部北校舎N224室)前の箱からも自由にお持ち下さい。また、バックナンバーもインターネットhttp://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.htmlで読めます。 (守 一雄)


【これは絶対面白い】

山岸俊男『安心社会から信頼社会へ』

中公新書\760


 大学新入生にとって魅力を感じる学問の一つに心理学がある。しかし、テレビなどを通して「一般に知られている心理学」と「学問としての心理学」はかなり違っている。学問としての心理学は人間を科学的に研究するものなのだ。人間の心という捉えようのないものを、科学的に研究するためには、いろいろな工夫が必要となる。この本は、社会心理学という心理学の1分野において、人間の心を科学的に研究することの面白さを堪能させてくれる本である。科学的であるということは厳密であることである。また、論理的でもなければならない。綿密な論理と実証的な実験との組み合わせがこの本の面白さを作り出している。「一般に知られている心理学」のつもりで読むと少し難しく感じられるかもしれないが、大学生ならこの著者の論理展開についていってもらいたい。

 科学的な研究のためには、まず研究対象の厳密な定義がなされねばならない。この本では、研究対象の「信頼」についての定義だけで第1章が丸々使われている。日常なんとなく使っている言葉ほど実は厳密な定義が難しい。「信頼」の定義も同様である。いろいろな場合分けがなされ、あまりにも厳密に定義がなされるために、ややくどく感じられるかもしれないが、適切な例を使って丁寧に説明がされているので、ぜひ丹念に読み進んでほしい。論理的にものごとを考えることの面白さも味わえるはずである。

 第2章からは「社会的ジレンマ実験」を使って、数々の興味深い事実を見いだしていく。「社会的ジレンマ」というのは、「お互いに協力しあえばみんなが利益を得られるのに、それぞれが自分の利益だけを考えて行動すると、誰もが不利益をこうむってしまう状況のこと」である。環境問題をはじめ世の中の問題のほとんどが社会的ジレンマであるとさえ言える。著者らはこうした社会的ジレンマを模擬的に作り、そうした状況で人々がどう行動するかを実験してみるのである。そしてそうした実験によって、「日本人の方がアメリカ人よりも実は個人主義的であること」や「日本人の方がアメリカ人よりも他人を信頼していないこと」など、広く信じられていることとは反対の事実が明らかにされるのだ。

 社会的知性の高い人ほど他人を信頼すること、また、誰が信頼できるのかをより的確に判断できることなどを科学的に明らかにし、信頼することの重要性を社会全体が理解しているような「信頼社会」を作るべきだという著者の結論は説得力がある。大学という新しい社会に飛び込んだ新入生にとって重要な示唆を与えてくれる本でもある。(守 一雄)


DOHCメニュー