毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)
それは作者が多くの資料や綿密な調査に基づいて書いたものであるからであるが、それだけではない。巻末の解説を書いている堀江邦夫氏が看破しているとおり、「[原発について書かれたものは]<フィクション(虚構)>だったはずのものが、後に一転して<ノンフィクション(事実)>と化し、逆に<ノンフィクション(事実)>だったはずのものが、実際には<フィクション(虚構)>だったりする。」のである。
原発に関する本では、「フィクション」とされるもののほうが、むしろ実態を正確に描き出していて「事実」に近いのだ。現に、1988年にカッパノベルスとして刊行されたこの小説(虚構)も、ほとんど現実そのまま(事実)であることが判明した。一方、「事実」であるはずの国や電力会社が発行している解説書・報告書は、次々にウソ(虚構)であることがばれ、今や、国や電力会社の言葉を信じている人はいなくなった。国民のほとんどは、原発の安全性が虚構であることを知りつつ、騙されたフリをして、忘れる(=自分自身をも騙す)ことにしているだけである。しかし、忘れたって問題は解決しないのだ。この本を読んで、原発の抱える問題を直視すること、そして、万一に備えての避難の準備もしておくことを強く勧める。
巻末には、自ら原発の下請け作業員となって迫真のルポ『原発ジプシー』を書いた堀江氏による解説と、東海村臨界事故の現場から9Kmに住む作家の檜山良昭氏による「レポート1999年9月30日--本当の恐怖はこれから始まる--」が収録されている。 (守 一雄)