第13巻第5号              2000/2/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 「そんなバカな」と驚くよりは、「ついに日本でも起きてしまったか」と妙に醒めて事態を見守ったあの東海村の臨界事故から4ヶ月が経ちました。「今更、どうしようもないこと」と諦める以外に対策の講じようのない近隣の人々はただ「悪い夢だった」と思って忘れることにし、それ以外の国民の大半は、事故が自分の近くでなかったことにホッとし、根拠もなく「自分のそばでだけは起こりえない」ことを信じ、これまた「できれば思い出したくないこと」として無意識の底へ抑圧してしまったのでしょう。もうすっかり、過去の出来事として、人々の話題にも上らなくなりました。しかし、問題は解決したわけではなく、誰もが無責任に忘れようとしているだけです。そうした中で緊急出版されたこの本を読むと忘れてはいけないことをもう一度きちんと心に刻むことができます。(守 一雄)


【これは絶対面白い】

生田直親『原発・日本絶滅』

光文社文庫¥495


 茨城県東海村にある原発に異常振動が発生。日本原子力研究所の湯原博士は原子炉を緊急停止するよう指示を出す。しかし、原子炉を停止させると電力会社は何億円もの損害となる。原子炉の緊急停止は「世間への評判」も悪い。そこで、東菱研究所の井沢は形ばかりの点検を済ませると、独断で運転再開に踏み切ってしまった。だが点検で原子炉の異常は直っていなかった。原子炉は再び異常振動を始め、ついには制御も効かなくなったのである。暴走だ。もうメルトダウンが起こり、大爆発となることは時間の問題である。  事態を知った政府は緊急対策を講じるが、今から住民を避難させたとしてもかえって混乱を引き起こすだけだと考え、事態を秘匿することにした。そして、政府首脳だけは首都東京の崩壊後の日本をコントロールするために、極秘に札幌に脱出するのである。


 もちろんこれは長編小説であり、すべてフィクションである。「この作品はあくまで小説であって、ストーリー上特定の土地を設定し、実在する諸機関を登場させましたが、起こった出来事はすべてフィクショナルなものであることをここに明記致します。」という丁寧な断り書きさえある。しかし、なんと事実と酷似していることか。

 それは作者が多くの資料や綿密な調査に基づいて書いたものであるからであるが、それだけではない。巻末の解説を書いている堀江邦夫氏が看破しているとおり、「[原発について書かれたものは]<フィクション(虚構)>だったはずのものが、後に一転して<ノンフィクション(事実)>と化し、逆に<ノンフィクション(事実)>だったはずのものが、実際には<フィクション(虚構)>だったりする。」のである。

 原発に関する本では、「フィクション」とされるもののほうが、むしろ実態を正確に描き出していて「事実」に近いのだ。現に、1988年にカッパノベルスとして刊行されたこの小説(虚構)も、ほとんど現実そのまま(事実)であることが判明した。一方、「事実」であるはずの国や電力会社が発行している解説書・報告書は、次々にウソ(虚構)であることがばれ、今や、国や電力会社の言葉を信じている人はいなくなった。国民のほとんどは、原発の安全性が虚構であることを知りつつ、騙されたフリをして、忘れる(=自分自身をも騙す)ことにしているだけである。しかし、忘れたって問題は解決しないのだ。この本を読んで、原発の抱える問題を直視すること、そして、万一に備えての避難の準備もしておくことを強く勧める。

 巻末には、自ら原発の下請け作業員となって迫真のルポ『原発ジプシー』を書いた堀江氏による解説と、東海村臨界事故の現場から9Kmに住む作家の檜山良昭氏による「レポート1999年9月30日--本当の恐怖はこれから始まる--」が収録されている。 (守 一雄)


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