毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)
さて、西暦2000年の始まりを祝う号にふさわしいのはやはりこの本でしょう。以下の紹介文は、DOHCの1996年11月号の再録(一部略)です。今回で4回目の紹介ということになりました。(守 一雄)
> 同じ著者によるものですし、『遺伝子の川』もいい本ですが、『利己的な遺伝子』に比
>べると雲泥の差があります。それでも、『遺伝子の川』の方が新しいし装丁もきれいだし
>小ぶりで読みやすそうだし定価も千円も安いしと多くの人は考えてしまうのでしょう。し
>かし、その選択は間違いです。「古くて」「装丁も野暮ったくて」「厚くて読みにくそう
>で」「2800円もする」けれど、『利己的な遺伝子』の方を選ぶべきです。
> 「装丁が野暮ったい」のはどうしようもありませんが、読みやすいのは間違いなく『利
>己的な遺伝子』の方です。「厚くて読み通す自信がない」と言う人には、まず第1章から
>第4章までだけを読むことを薦めます。ここに書かれていることが、この本の中核となる
>「利己的遺伝子理論」です。ここを読めば誰でもこの理論の核心がわかります。
> 第5章から第10章までは、この理論を種々の状況にあてはめた場合の具体論です。それ
>ぞれが読み切りの別の本と考えてもいいもので、差し当たってはどれか一つを読めば充分
>です。オススメは第9章「雄と雌の争い」です。にわかに信じがたいと思われた「利己的
>遺伝子理論」がここでの具体論を読んでいくと、なるほどと思わざるをえなくなります。
> 第11章は、1976年版では最終章だったもので、生物学的な遺伝子の概念を文化的な遺伝
>子にまで拡張した有名な「ミーム理論」が出てきます。「人間だけは遺伝子の支配から逃
>れられるのではないか」と希望を持たせて本が終わるようになっています。
> 第12章と第13章は、1989年版で追加されたもので、第12章は第5章から第10章と同様の
>読み切りの独立した章です。第13章は同じ著者の『延長された表現型』という本の簡略版
>です。この部分も差し当たっては読む必要がありません。
> この本を分厚くしている原因に、百ページ近くにもおよぶ補注があります。これは、
>1976年版が世界中(なぜか日本を除く)で大論争を引き起こし、おびただしい反論が著者
>に浴びせられたため、それに詳細な反論をしたからです。おそらく読者が抱くであろうあ
>りとあらゆる反論がここにあります。そして、それに対してドーキンス氏は見事な回答を
>しているのです。この部分には論争を読むという面白さもあります。この部分は、本文す
>べてを読み終わってからの「お楽しみ」に取っておきましょう。
> というわけで、確かに『利己的な遺伝子』の方が2800円と千円も高いのですが、1冊で
>少なくとも5冊分の内容が詰め込まれているのです。そして本当に読むべき部分はわずか
>100ページ程度にすぎません。そうすると「わずか100ページの本で2800円。それは高いよ」
>と言う人がいるかも知れないので、もう一押ししておくことにしましょう。私は、DOHC月
>報第4巻9号(1991/6)で「学生時代にこの本1冊を読むか、それともこの本以外の400冊
>を読むかのどちらかを選ぶとしたら、この本1冊を読む方を選ぶべきだ」と書きました。
>つまり、この本は1冊で400冊以上の価値があるのです。