松沢哲郎
『アイとアユム』
講談社 
 

  おい、次朗。チンパンジ
ーってゴリラと人間のどっち
により近いと思う?

次朗  って聞くってことは、
人間の方に近いってことかな。

  そう。DNAの配列を調
べるとヒト・チンパンジー・
ゴリラがどう進化してきたか
がわかるんだが、まず八百万
年くらい前の共通祖先からゴ
リラの系統が別れ、ヒトとチ
ンパンジーの祖先はまだ同じ
生き物だったんだそうだ。つ
まり、ヒトとチンパンジーと
は進化的に一番近い「進化の
隣人」同士というわけさ。

次朗  でも、チンパンジーっ
て人間の三歳くらいの知能し
かないんでしょ?

  うん、ま、そうだけれど、
チンパンジーの方が優れてい
ることもあるんだぞ。

次朗  木登りとかでしょ?

  いや、純粋に頭を使うよ
うな課題でもヒトより優れて
いることがあることもわかっ
たんだ。京都大学霊長類研究
所の松沢先生は言葉や数字を
覚えた天才チンパンジーとし
て知られるアイちゃんの研究
で世界的に有名な学者だけど、
そのアイちゃんは、パソコン
の画面に出された五つの一ケ
タの数字を瞬時に読みとって
小さい順に指で触ることがで
きる。この課題を京都大学の
大学院生にやらせてみるとア
イちゃんの方が成績がいいん
だ。

次朗  そのアイちゃんって子
どもを産んだんでしょ?

  そう、アイちゃんは二年
前にアユム君という男の子を
産んでお母さんになったんだ。
この本はアユム君が生まれて
からのアイとアユムの二年間
が紹介されているんだ。写真
もたくさんあって、なかなか
可愛いぞ。本文にはすべてふ
りがなも振ってあるので小学
生でも読める本だけど、中学
生くらいに一番読んでもらい
たい本だな。

次朗  うーん、これは可愛い
ね。ほとんど人間の子どもみ
たいだね。

  そう、さっきのクイズじ
ゃないけど、松沢先生はチン
パンジーを完全に人間の仲間
とかんがえていて、この本で
も「一人、二人」と数えたり、
「男性」「女性」と呼んだり
しているくらいさ。松沢先生
はチンパンジーにヒトの言葉
を教えているだけでなく、自
分でもチンパンジーの言葉を
覚えようとしてもいるんだ。

次朗  ゴリラやオランウータ
ンだって人間の仲間と考えて
もいいよね。ゴリラに似てい
るゴールキーパーとかもいる
んだし。

  オランウータンに似てい
る官房長官もいるしね。

       (守 一雄)