大蛇祭り 渋温泉民話発信
 
“ 黒姫伝説 ”
 
昔、信州の山のふもとの高梨城に、黒姫という美しいお姫様がおりました。

ある日のこと。
 
城の殿様が黒姫をともなって花見に出かけると、そこに一匹の白いヘビが現れました。
 
黒姫がヘビを怖がることなく杯をふるまってやると、
 
ヘビは酒を飲み干し、去りがたそうに姫を見上げました。

ひとりの若者が黒姫をたずねて来たのは、その晩のこと。

若者は姫に、竜をかたどった鏡を授けると、霧のように消えてしまいました。

黒姫は、気高く美しいこの若者に心惹かれますが、
 
数日後再びたずねて来た若者に殿様が会うと、彼はこう言うのです。

「自分は大沼池の主である大蛇です。白ヘビに化けて散歩していた時に出会った
 
黒姫が忘れられず、こうして参上しました。」 若者は黒姫をわが妻にと頼みますが、
 
人ならぬ者に大事な娘をやれないと、殿様は若者を追い返してしまいます。

しかし、それから何日も何日も、大蛇の青年は人の姿をとって
 
殿様の前に現れ、同じ願いを繰り返しました。

そうして100日が過ぎた頃、殿様はある話を若者に持ちかけます。
 
「わしが馬に乗って城を21回まわる。遅れずに付いて来れたら、お前に姫をやろう。」

こうして殿様と大蛇の青年の力くらべがはじまりました。

若者は負けじと殿様の後を追いますが、殿様は馬の名手。
 
なかなか追いつく事などできません。
 
彼は次第に苦しくなり、ついに大蛇の姿を現してしまいました。

大蛇に姿を変えた青年を、橋の下に隠れた殿様の家来達が、
 
刀で切りつけます。見る見る血は流れ、大蛇は息もたえだえです。
 
それでも大蛇は21回、城をまわり終えました。
 
しかし、傷付き、見るも恐ろしい姿になった大蛇に、殿様は言うのです。
 
「お前のような異形の者に、姫をやれるか!さあ帰れ!さもなくば切り殺すぞ!」
 
大蛇はついに激怒しました。「さんざん礼を尽くした結果がこれか!」

大蛇はそう叫び、かき消えたかと思うと、辺りは真っ暗になり、激しい嵐となりました。

あちこちで洪水が起こり、人々は悲鳴をあげて逃げ惑います。

そのありさまに黒姫は、いてもたってもいられません。

「お父様、なんてひどいことを!大蛇との約束を破った上、傷つけて帰すなんて、
 
人としてあるまじきこと!」 黒姫は庭へ走り出ると、
 
大蛇の青年がくれた鏡を空へと投げて叫びました。
 
「大蛇よ、私はあなたのもとへ行きましょう。だから嵐をしずめて下さい!」
 
鏡はキラキラと光りながら空へ吸い寄せられたかと思うと、
 
たちまち大蛇が降りてきて黒姫を背に乗せ、再び空へと駆けのぼりました。
 
黒姫は大蛇の背から見える風景に、目を覆いました。
 
城下の家々や畑が流され、辺り一面は洪水により川原と化していたのです。

大蛇は山の頂に静かに降り立ちました。
 
大蛇の背中から降りると、黒姫は涙を流して言いました。
 
「大蛇よ、あなたはなぜ、あんなひどいことをしたのですか?罪なき村人を巻き込むなんて。」
 
黒姫の言葉に、猛々しい大蛇もその目に涙浮かべて答えるのでした。
 
「許してください、姫。人間に裏切られたと知った時、
 
私の心には、自分でもどうにもならない荒れ狂うものがあったのです。
 
しかし姫のやさしい心に触れ、私の心も生まれ変わることが出来そうです。」

こうして黒姫と大蛇はこの日より、この山で共に暮らすようになりました。
 
以後、人々はこの山を「黒姫山」と呼びます。
 
 
 
大蛇祭りのようす