弔 辞

モーグルナショナルチーム 三浦 豪太 選手

トールへ

まさかこんな形で君にさよならを言うとは、思ってもみなかった。
先週、お通夜の時君に久しぶりに会ったとき、最後の最後まで戦った君の姿がそこにあった。トール、君はすでに自分の運命を去年の9月から知っていたそうだね。その時点で、それまで持っていたオリンピックという小さな頃から抱き続けてきた夢をあきらめて、僕たちとは違った闘いを選択しなければならなかった。
それは負けず嫌いの君にとってどんなに苦しい選択か、同じチームで同じくらい負けず嫌いな僕にしても、計り知れない苦しみだったに違いない。
でも君はその選択を受け入れ、そして自分が4年後には、その秘めた夢を実現するために、そして自分の愛する人たちに一日でも早く、自分の元気な姿を見せようとして治療に専念し始めた。その闘病をする君の姿は、いつも僕が持っているトールの姿からは想像を絶する物に違いなかったはずである。
なぜならトール、君は勝負には真剣になる反面、いつも笑顔を絶やさず、その時その時をいつも楽しんでいた。そして、そういう君と一緒にいるのが、僕はとても楽しかった。

 君の周りにはいつも人が集まってきていたね。スキーが上手くてカッコよければ当然だけど、でもそれだけではないと思う。
トール、君の魅力はひたむきになれることだ。自由な心にひたむきなスキーへの情熱、その二つを持って君は世界中を駆け巡り、自分を磨いていたね。
そして、わずかモーグルを初めて2年目でナショナルチームに入り、それ以来君は僕にとって最大のライバルになった。ほかの日本選手より早くヘリコプターという技に取り組み、カナダの強豪たちの中で揉まれ、最後までヘリコプターにこだわりを持ち続けていたね。そしてこの技こそ、君をNorth American Cupで優勝に導き、ワールドカップにいきなり登場して、海外のいかれたフリースタイラーより更にクレイジーな日本人がいると、世界中に知らしめさせたよ。

でも本当にすごさというのは、この1年間人知れず病気と闘いながら、痛くて悔しくてしょうがないはずのオリンピックに笑いながら応援に来てくれたと言うことだ。
たぶん、同じ状況であるなら僕が知りうるかぎり、誰も同じ真似は出来なかったことであろう。自分の痛みを我慢して僕たちを応援に来た君の強さは、本当の意味での人間の強さであり。この姿こそ、どんな言葉をも越えたひたむきなトールの優しさだった。
トールの優しさを抜きに今の日本のチームの活躍はなかったと思う。君は、選手としての強さはもちろん、競技の中で周りをいたわれるほど大きな心を持っていた。そして、これこそが今の日本チームを支える柱だった。

トール、君ほどこのモーグル界に貢献した人はいないと思う。でも僕が悲しいのは、偉大なスキーヤー“森 徹”をなくしたことよりも、僕の友達としてのトールをなくしたことだ。

こうしてさよならを言うと、君と過ごした楽しい時間ばかりが溢れてきて、そして、これから当たり前のように過ごせると思っていた未来だけが惜しまれる。君がどれだけがんばったか、お通夜の時に君の姿を見てよく分かった。でもやはり君が旅立つのは、残された者たちにはあまりにも早すぎた。

最大のライバルであり、最高の友達であるトールよ。
いつも競い合い、いつも楽しんで、時にはぐでんぐでんになるほど酔っ払って君の冗談を聞いて、酔いが深まったり覚めたりして過ごした合宿や遠征、いつもひたむきの中にユーモアをおりまぜ、どんなに暗いときでもチームを盛り上げてくれた。そういった時間は二度と同じには過ごせない。君と過ごした時間は、いつも暖かくそして何よりも色濃く君が触れてきた全ての人々の胸の中に輝いている。

どうかこれからは安らかに眠り、僕たちを見守ってくれ。

 

モーグル全日本選手代表  三浦 豪太


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