お彼岸は日本だけの習慣
 春分(3月21日)と秋分(9月23日)の日を中日とし、その前後3日間 ずつをあわせた各7日間を「春彼岸」「秋彼岸」といいます。その初日が「彼 岸の入り」にあたります。春分・秋分とは、太陽が春分点・秋分点に達したと きで、このとき、昼と夜の長さが等しくなります。お彼岸は、このような自然 の季節の変わり目にあたっておこなわれてきたさまざまなまつりの中から、育 ってきた仏教的な行事です。
この仏教的な行事はインドや中国・朝鮮の仏教行事にはなく、日本的なもの といわれています。806年(延暦25年)、淡路に流され絶食して死去した 早良親王(追号・崇道天皇)の怨霊を鎮めるため、諸国国分寺の僧に春秋二仲 月別七日、金剛般若経を読ませたのが、彼岸会のはじまりとされています。

到彼岸、ハラミツ
  「彼岸」ということばは、サンスクリット語のParamita<波羅蜜(多)> の訳語で、「到彼岸」の略とされます。よく知られている仏典「般若心経」は 詳しくは「般若波羅蜜多心経」といい、読経のなかで、「ハンニャハラミタ、 ハンニャハラミタ(般若波羅蜜多、般若波羅蜜多)」と呪文のように唱えられ ているのは「彼岸に到る」ことをねがう祈りをこめたものです。
 お彼岸、到彼岸、波羅蜜とは、わたしたちの生きている「この世」を<此岸 >とすれば、死の向こう側の世界である「あの世」、<彼岸>に到ることをお もう年中のなかの特別祭事の日ということになります。
 春、秋の昼と夜の長さが等しくなり入れ替わる刻限は、わたしたちの心のな かの、「この世」と「あの世」の比重が等しくなり、此岸と彼岸の交流がさか んになる時刻と考えられたのでしょう。これは、「正月」と「お盆」が年の変 わり目の刻限にあたっていて、祖霊のおとずれる日々であるとされる考え方と も似かよっています。
 すこし、ちがいがあるとすれば、「お盆」が祖霊のおとずれを迎える行事だ とすれば、「お彼岸」はむしろ、生者が死の向こう側にむけて心をかよわし、 よき死、よき成仏をおもって生きる気持ちに、より重みがかかった行事なのか もしれません。
 仏教では、ハラミツ、さとりの彼岸に到る実践の徳目として、布施・持戒・ 忍辱・精進・禅定・般若(知恵)をあげ、これを六波羅蜜とよび、方便・願・ 智・力を加えて十波羅蜜とよんでいます。彼岸に到るための日々の心の用意を、 このような徳目によってさし示したものでしょう。