浅間山の植物向き合い5年

開発や盗掘から守りたい

 

信濃毎日新聞 掲載

平成17年8月9日(火)

 浅間山の旧火口底、湯の平に咲くユキワリソウをテーマに、東大大学院農学生命科学科研究員だった下野綾子さん(32)=東京都=が五年にわたり野外調査を続け、このほど博士論文にまとめた。八月から国立環境研究所(茨械県つくば市)研究員として中国チベット高原の高山植物調査に取り組む下野さんだが、浅間山での観察も続ける考え。研究を、開発や盗掘などで危機にひんする高山植物の保全に役立てたい−との願いも込めている。

 下野さんは東京都出身。北海道大学を卒業後、環境コンサルタント企業に就職したが「環境保全につながる研究をしたい」と、東大大学院に進んだ。趣味の山歩きを生かして、湯の平の湿原と草地に自生するサクラソウ科のユキワリソウ研究に着手。花の時期と、種子が実る時期を中心に毎年二カ月間、登山拠点の火山舘に泊まり込んだ。

 「個体数の維持には、地中の種子が重要な役割を担っている」として、地上のユキワリソウだけでなく土中の種子について、翌年発芽するもの、休眠状態で保存されるものなどの分布を調査。種子の標本や遺伝子調査を行い、ユキワリソウの生息域の広がり方や、環境変化との関連性を明らかにした。

 湿地では、地上のユキワリソウから地中の種子の量を推測し、高山植物の生態調査を簡単に行う方法も提示。地中の種子まで含めた研究は世界的にも少ないという。

 昨年九月の噴火で入山規制されていたこともあり、下野さんは七月中旬、約一年ぶりに入山。調査地域では噴火の影響がほとんどないことを確認した。下野さんは「浅間山周辺は生物の多様性がよく分かる地域。毎年一回は訪れ、観察を続けていきたい」と話した。

写真:浅間山のユキワリソウを5年間研究し論文をまとめた下野綾子さん